幼馴染のち恋模様

今日は開発プロジェクトの調整会議が行われる。私も取材のため立ち会うことになった。
長机を挟んで、市の担当者、鉄道会社の管理部、テナントオーナー、そして設計担当の梗介が座っている。
緊張感のある会議室に入り、葵も空いている端の席に腰を下ろした。

「それでは、開発案についてですが・・・」

市の担当者が資料をめくる音がやけに大きく響いた。

「今回の計画は、あくまで駅前の利便性向上が目的です。滞留スペースをつくる必要性については正直、慎重に考えたい」

鉄道会社の担当者が言葉を選ぶように続ける。

「人が長時間留まると、安全管理や清掃コストが増えるという懸念もあります」

梗介は黙って聞きながら手元の図面に視線を落とす。

「その点は理解しています」

そう前置きしてから、顔を上げた。

「ただ、この場所は駅の延長線上にあります。通過させるだけなら開発する意味がない」

彼の声は低く、落ち着いていた。

「雨の日、改札を出た人たちが立ち止まる場所がない。それが今の霜月駅の大きな課題です」

テナントオーナーが腕を組む。

「でも、無料で座れる場所を作ると、店に入らない人ばかり集まるんじゃないですか?」

その言葉に、室内の空気が少し張り詰めた。
梗介は沈黙を作り言葉を探す。

「注文しない人がいることをマイナスだとは考えていません」

梗介の真っ直ぐな声が響く。

「そこに居ていいという感覚が先にあるから次に繋がる人も出てくる。街としては、その方が長く使われる場所になりますよね?」
「理想論では?」

誰かが小さく呟いた。
葵は思わず顔を上げた。反論の言葉が喉まで出かかったが、この場で発言する立場にないのでグッと堪える。

「つまり、公共性と採算性のバランスをどう取るかですね・・・」

市の担当者が話をまとめるように言う。

梗介は頷いてこう続けた。

「そのために、カフェはあくまで一部に留めます。主役は”場所”そのものです」
その言葉に葵は息を呑む。
”主役は場所” その言葉が胸に残った。



会議は一時間ほどで終わった。明確な結論が出ず、「再検討」という言葉だけが残された。

葵は会議室を出る直前、梗介の横で足を止める。

「・・・お疲れ様でした」
「お疲れ」
顔を上げ、答える梗介の笑顔は硬い。
だけど、なんと声をかけていいか分からず曖昧に微笑んで会議室を後にした。


< 28 / 126 >

この作品をシェア

pagetop