幼馴染のち恋模様

あれからどうにか気持ちを切り替え梗介のいない日常に戻った。
寂しい気持ちも梗介との約束があれば乗り越えられると、この時の私は悠長に考えていた。


ある日、青い顔をした楓華が慌てた様子で声をかけてきた。

「柚月さん!これ見てください!」

楓華に見せられたのは社内掲示板だった。そこには名無しである投稿がされていた。
内容は、ある女性社員が、複数の男性と関係を持っているというもの。
そこに添付されていた写真は、私に似ている人が目元が隠された状態で違う男性とホテルに入っていく複数枚の写真だった。
私を知っている人は目元が隠されているだけの写真からすぐに私だと判断してしまうくらいには似ていた。服装も私が持っているものと同じか似たようなものだ。

コメント欄ではもう既に私の名前も出ていて血の気が引いていく。
投稿されたのは月曜日の夜・・・一昨日だ。
状況が理解できなくて体が強張る。

「柚月さんじゃないことはわかってますから安心してください!けど、こんな投稿何のために・・・?」

本当に疑問だ。私を陥れたいのは伝わるが、ここまで誰かに恨まれるようなことをしただろうか?

「柚月さん。これから少し時間もらえるかな?」
「はい・・・」

部長から声がかかり二人で会議室へ向かう。
会議室に入ると女性が一人待っていた。

「大丈夫だよ。私もついている」

不安に揺れる葵の心を慰めるように部長が声をかけてくれた。

「人事部の鶴見と申します」
「編集部の柚月と申します」

簡単に挨拶を交わす。

「突然お呼び立てしてしまい申し訳ありません。社内掲示板の件でお話を伺えればと思いお呼びしました」

やはりそのことか・・・と身構える。

「掲示板の投稿はご覧になりましたか?」
「はい。先ほど確認しました」

まだ自分の中でも消化しきれていないが・・・。

「投稿された写真が柚月さんではないかと噂になっているのですが、柚月さんに心当たりはありますか?」

鶴見は終始穏やかに語りかける。

「あの写真は私ではありません。あのような場所に行った事実もありません。服装は私が持っているものと同じ物もありますが、全くの別人です」

毅然とした態度で答える。何も後ろめたいことはない。

「そうですか、分かりました。では、わざと柚月さんに見えるよう撮られた写真ということですね?」

すんなりと受け入れられ拍子抜けしてしまう。
もっと詰めらるかと思っていた・・・。

「おそらく・・・」
「何か悪意を向けられるような心当たりは・・・?」
「申し訳ありませんが思いつきません・・・」

どうしてこんなことになっているのかと自分でも戸惑うばかりだ。

「掲示板にはうちの社員しかログインできません。まずはこの投稿をした人を探します。柚月さんの方でも何か進捗がありましたらお知らせください」
「承知しました。・・・・あの・・・・どうして信じていただけるんでしょうか?私は、この写真が私ではない証拠を何も持っていません。なのにどうして・・・」

こんなにあっさり受け入れられると、失礼だが逆に不審に思ってしまう。

「あぁ・・・ふふっ、部長さんが絶対に柚月さんじゃないから犯人探しに協力して欲しいと頼まれたんです」

鶴見は微笑みながら答えた。
部長が・・・?
驚いて部長に視線を向けると、少し怒りを含んだ真剣な顔で頷いた。

「あんな写真に騙されたりしないよ。私は入社した時から柚月さんを知ってる。似ても似つかないし、柚月さんは決して道理に反することはしない。こんな非情なことをする人、私は許さないよ」

普段の温厚でニコニコゆるキャラのような部長は影を潜め、人情深く頼もしくて格好良い上司の姿だった。
昔から背中を守ってくれる尊敬する方だったが、こんなにも強く守られたことは初めてで涙腺が緩む。
だが、ここは会社。泣くのは帰ってからにしようと瞬きを繰り返し涙を引っ込める。

「私も部長さんを尊敬する一人です。尊敬する部長さんが庇う人なので、まずは話を聞いてみないとと思ってこの場を設けました。先程柚月さんが言ったように、写真が柚月さんではないという証拠が、今はありません。ですので私はまだ判断しかねます。ただ、柚月さんの真っ直ぐな目を見て、話を聞いて、今私ができることを公平にしなければと思いました。私ができることはお力になります」

鶴見さんの立場は中立でなければいけない。最大限の配慮が滲む言葉たちに冷えていた心が温度を取り戻す。

「部長・・・鶴見さん、ありがとうございます」

これからのことを思うと気が重くなるが、無実であることに変わりはないので胸を張って堂々と会議室を出た。


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