幼馴染のち恋模様
一週間後。
あからさまな視線が向くことが増えた。部内の人たちは理解を示してくれる人ばかりで、何とかやり過ごしている。
二週間後。
社内掲示板に新たな投稿がされた。
私と部長が二人で写っている写真。角度的にキスしているようにも見える。
内容は、女性社員と部長職社員との不倫疑惑というもの。
今回の写真は似ている人ではなく本人だ。悪質さが増していて背筋が凍る。
他の社員からの視線が格段に鋭くなり、悪口も直接的に投げられるようになった。
否定しても信じてはもらえない。
吐き気に襲われトイレに駆け込む。最近は食べても吐いてしまう。どうにか軽く喉を通りそうな果物類で凌ぐことが多い。
後輩の楓華はとても心配して寄り添ってくれているのが唯一の救いだ。
部長も否定した上で毅然とした態度を貫いている。
私も負けちゃダメだと、重い腰を奮い立たせた。
梗介が出張に戻って1ヶ月が過ぎようとしていた頃、ある噂が流れていた。
”藤堂コーポレーション社長令嬢、若手建築家と婚約”
梗介の名前は出されていないものの、雰囲気のいいレストランで二人で食事してる写真が、目元だけが隠された状態で週刊誌に載っていた。
追い打ちをかけるような内容に心が壊れていく。
スタイルのいい二人の写真はどこからどう見てもお似合いで、心が疲弊している今の葵には毒にも等しいものだった。
最近は梗介も忙しさに拍車がかかり連絡も減っている。電話をしても梗介が寝落ちてしまうことも多く、私も平常心で会話をできる気がしないため、連絡を控えている。
会いたい。名前を呼んで抱きしめてほしい・・・。
そう思うのに、梗介には伝えられなくて時間だけが過ぎていった。
そんな葵の気持ちを知ってか知らずか、藤堂瑠奈がまた会社前で待ち伏せしていた。
正直、今対峙する気持ちの余裕はなく、見なかったふりをして通り過ぎようとした。
「柚月さん。プレゼントは受け取ってくれた?」
瑠奈の言葉に足が止まる。何のこと・・・?
「これが最後にするわ。話がしたいの、付き合ってくれるわよね?」
足を止めてしまった上、絶対に逃さないという圧を感じ頷くしかなかった。
会社から少し離れた小さな公園。瑠奈が切り出す。
「プレゼントは手をかけたのよ?感謝してね」
「先程からプレゼントって何ですか?」
早く話を終わらせたくて急かすように問いかけた。
「複数の男性との関係に上司との不倫疑惑。怖いわ〜」
瑠奈は楽しそうにクスクス笑っている。
それはつまり・・・掲示板の犯人はこの人・・・?
社員でもない人がどうやって・・・?
思っていることが顔に出ていたのか、瑠奈はバカにするように話す。
「あの会社に勤めてる男性社員はちょろいわね。ちょっと良いように接してあげただけで何でも言うこと聞いてくれたわ」
「どうして・・・」
「別れてって言ったでしょ?」
さっきまでの笑みを消し、葵をキッと睨む。
「梗介から話はあった?」
「いえ・・・」
「はぁ・・・幼馴染って厄介ね。きっとあなたが情に訴えかけるせいで切り出せないのよ・・・」
私はそんな風に梗介と話をしていただろうか・・・。
「婚約はもう決まってることだから、諦めてくれない?」
答えられずに俯いて立ち尽くす。
「それに・・・霜月駅前開発プロジェクト、だったかしら?」
その言葉にバッと顔をあげる。
「このプロジェクトだって、父の一声で中止にすることもできるのよ?」