幼馴染のち恋模様

薄暗い部屋の中、カーテンの隙間から陽の光が差し込み朝を知らせる。

「・・・ぅ、ん」

葵は瞬きを繰り返し目を擦る。体が何かに巻き付かれていて動けない。
お腹のところにある腕に気がつき、昨日の甘い情事を思い出し赤面する。

すごく・・・エッチだった・・・。
一度では終わらず何度も求められ、快感から逃げられない苦しさに、最後の方は何が何だか・・・って、何思い出してんの!

このままではループから抜け出せないと思い、葵の背後でまだ気持ち良さそうに寝息を立てている梗介を起こさないよう、そっとベッドから出る。

シャワーを浴びようと浴室に入り浴衣を脱ぐ。手首の内側に赤い痣のようなものを見つけ首を傾げる葵。
こんなところに痣なんてあったっけ?
と思っていると、反対の腕にも。嫌な予感がして自分から見える部分を確認していくと・・・胸やお腹、太ももにふくらはぎまで。赤い花びらが舞う自分の体に衝撃を受ける。

『痕、つけていい?』

昨夜のフワフワする記憶の中から艶めかしく笑う梗介の言葉が脳内再生され、顔まで赤く染まる。

「付けすぎだよぉ・・・」

どうにか服で隠せそうで安心する。今が冬でよかった・・・。

シャワーを浴び終わり、歯を磨いて軽く身だしなみを整えているとスマホが震えた。浩樹からだ。
止まっている部屋にはベランダがないので、部屋を出てロビーまで出てきた。

「もしもし」
「おはよう葵。昨日は大丈夫だったか?」
「おはよう。うん、解決したよ」
「ごめんな。時間早いかと思ったんだけど、心配だったからさ・・・解決したなら良かったな」

私が梗介から逃げた場面を見ていた人からしたらそりゃ心配になるか、と申し訳なくなった。

「こちらこそ心配かけてごめんね。もう大丈夫だから」
「葵、あのさ・・・今から会えない?」
「今から?」
「俺が泊まってるホテルから葵の宿近いんだよ。話したいことあって・・・長くはかからないから、時間貰えないか?」

昨日の梗介のやきもちを思い出して苦笑いを浮かべる。

「ごめん、会えない。電話じゃダメかな?」
「・・・そっか。うん、じゃあ今言うわ。」

覚悟を決めたように、声に芯が通る。

「俺、今でも葵が好きだ」

耳元に流れ込む浩樹の言葉に胸が切なく疼く。

「別れた後、すごく後悔したんだ・・・。もっと向き合えば良かったって、もっと縋り付けば良かったって・・・だから、駅前で葵を見つけた時、奇跡だと思った」

浩樹の声に後悔が滲み、別れた頃を思い出す。告白されて付き合い、少しずつ浩樹への気持ちが膨らんでいった。だけど、別れを切り出された時、何故だか納得した。きっと私も向き合いきれていなかったのだと思う。

「もう一度、俺と付き合ってほしい」

真剣な浩樹の声にスマホを持つ手が震える。だけど、伝えなければいけない。
葵は大きく息を吸い込みスマホをぎゅっと握る。

「ごめんなさい。想っている人が、いるの・・・。ひろくん、伝えてくれてありがとう。ひろくんと一緒に過ごした日々は、私にとってとても大切な思い出です。だけど、それだけ。今は頼りになる先輩です」

浩樹との思い出は私を作る一部だ。無かったことにはならないし、したくない。だけど、もう過去のこと。それ以上でも以下でもないのだ。

「だから、ごめんなさい」

浩樹はただ静かに葵の言葉を受け止めた。
目を閉じ、葵との思い出を振り返る。幸せだった時間をそっと閉じ込めるように息を吐いた。

「うん、分かった。真剣に答えてくれてありがとうな。また見かけたら、友達として声かけていいか?」
「もちろん!私も声かけるよ」

なんだかお互いスッキリして晴れやかな気分だった。

「時間貰って悪かったな。昨日の彼と仲良くな」

相手が梗介だと気が付いているようだ。

「うん。出張頑張ってね」
「おう。じゃあ、またな」
「うん、また」

電話を終え、窓の外に目を向けると雲一つない青空が広がっていた。
なんだか無性に、梗介に会いたいな・・・。

< 75 / 126 >

この作品をシェア

pagetop