幼馴染のち恋模様
梗介の肩がピクッと反応し、大きなため息をこぼす。
「はぁぁぁ。また戻らなきゃだった・・・」
ものすごく落ち込んだ声色に苦笑いするが、仕事は放り投げていいものではない。
「何時の飛行機?」
「離れたくない」
「何時の飛行機で戻るの?」
「戻っても仕事できる気がしない」
「梗介?」
「連れてってもいい?」
会話って何だっけ?こんなに一方通行なことは初めてだ。
そしてさっきまで震えていた梗介とのギャップが激しくてだんだん可笑しくなってきた。
「ふっ、ははっ、あははは!」
笑いが込み上げ吹き出す。
「えっ、葵・・・?」
困惑したようにオロオロし出す梗介がさらに笑いを誘い、お腹が捩れそうだ。
「自分でっ、笑わせておいてっ!あははっ!お腹痛いっ!」
「俺は至って真剣だぞ。笑うところなんか一つもなかっただろ」
ムッとしていじける梗介の姿は子どもの時と変わらない。私の知っている梗介が顔を出すのが嬉しくてくすぐったい気持ちになる。
ひとしきり笑い終えて、目尻に溜まった涙を拭いながら息を整える。
「ふぅ・・・ふふっ、待って。スゥーッはぁ・・・よし」
また笑いそうになるのを堪え、深呼吸で落ち着かせる。
そんな葵を怪訝そうに見つめる梗介。抱きしめるのは解いてくれたが、両手を握られている。
「私は明後日からまた仕事だから一緒には行けないよ。だから、待ってる。梗介の家で・・・待っててもいい?」
「俺の家?」
「うん。一緒に、住むんでしょ?」
梗介は少し驚いたような顔をしてから破顔した。
「仕事速攻で終わらせて帰ってくる。葵が待つ家に。帰ってきたら親に報告して婚姻届出そう。待っててくれるか?」
「もちろん!ご飯作って待ってるよ」
「俺、死ぬのかも・・・」
「ちょっ、縁起でもないこと言わないでよ!」
これから飛行機乗るのに何てこと言うんだ!
「幸せすぎて・・・怖いな」
葵の手を握る力が強まる。
その気持ちが、少し分かる気がした・・・。たくさん辛い思いをした分、幸せな気持ちになればなるほど、失うのではないかと不安になる。
でも・・・
「大丈夫。もう一人じゃないから。また辛い事が起きても、今度は一緒に戦えるよ。そうでしょ?」
梗介の頬に手を当て、ニコッと微笑む。
安心してほしい。信じてほしい。二度と同じ過ちは繰り返さないよ。
そんな想いを伝えるように・・・。
梗介はフッと笑みを浮かべるとキスをした。
「俺の奥さんはいい女すぎるな」
「惚れ直した?」
得意気にドヤ顔を向ける葵を優しい瞳で見守る梗介。
「出会った時から数えきれないくらい、惚れ直してるよ。これから先も、もっと葵のこと好きになる。終わりなんてない。死ぬまで、死んでも、来世でも、ずっと。ずっと愛してる」
感動で言葉を失う葵を抱き寄せ唇を寄せる。
「怒ったり、笑ったり、今は泣いてる。忙しいな、ははっ」
梗介の想いが、言葉が、笑顔が、心に沁みて胸がぎゅーっと締め付けられた。
「小さい時からそのコロコロ変わる表情が可愛くて、目が離せなかった。大人になっても変わらず可愛い」
「もうっ、やめてよ!泣いてる顔なんて可愛いわけないでしょ!」
嬉しいやら恥ずかしいやらで感情が迷子だ。
「どんな姿でも可愛いよ。おばあちゃんになっても、太っても痩せても、禿げても・・・ふっ」
「あ!今想像したでしょ!やだ!禿げないもん!」
「あははは!」
「ふふふっ、あはは!」
二人の笑い声が朝の陽だまりの中に響いていった・・・。