【SS集】クリスマスに甘い恋を。


 不良っぽい人たちに声をかけられて目を丸くしていると、音無さんがほおづえをついて、不満げな顔でそんなことを言った。

 それに対して、不良っぽい人たちは口を閉ざしながらも、身振り手振りや表情でなにか言いたげなようすを表している。

 いつのまにか、温かいここの空気に体がほどけきっていて、気付いたら私は、ふっと口元を緩めていた。




「…きみ、名前は?」




 音無さんが私に視線を移して、やわらかく目を細めながらたずねる。




「あ、椎野(しいの)稚奈(ちな)です…」


「ふーん、稚奈ね。かわいくて呼びやすい名前。僕のことは瑠唯(るい)って呼んでいいよ」


「瑠唯、さん…」




 ぽつりとくり返すと、瑠唯さんは「そう」と体を起こして、テーブルの上に手を出した。

 手のひらを上に向けて、なにかを求めているようだったから、なんとなく、自分の手を伸ばす。

 手が重なると、瑠唯さんは私の手を軽くにぎって、ゆるりと口角を上げた。
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