【中編】激甘すぎる婚前同居。 〜訳アリ令嬢は染織家の盲愛に気づかない〜
穂貴さんの腕の中で、私はただ、溶けていくような感覚に包まれていた。穂貴さんの胸に頬を寄せると、穂貴さんの体温が私の全身を優しく巡り、心臓の鼓動が私の鼓動と完全に重なり合う。あの力強い、でもどこか優しいリズムが、私に「ここにいて大丈夫だよ」と語りかけてくるようだった。
お腹の中にいる小さな命を、穂貴さんの大きな手がそっと覆うように撫でてくれる。その掌の温かさが、子へとまっすぐに届いていくのを感じて、私は胸の奥が熱くなり、息が震えた。
穂貴さんの腕の中で、穂貴さんの子を宿した体を抱きしめられながら、私は静かに、でも抑えきれない喜びの涙を流す。涙は止まらなくて、頬を熱く濡らし、穂貴さんのシャツに染みを作った。でも穂貴さんはそんなこと気にせず、ただ私を強く、強く抱きしめてくれた。その腕の力が、私のすべてを包み込み、守ってくれるという確かな証だった。
窓の外、夕暮れの空がゆっくりと藍色に変わっていく。あの色――穂貴さんが「君の藍色だ」と言った。あの海辺の夜を思い出す。波の音が響く中、穂貴さんは私の手を握りしめて、沈む夕陽を指さした。
「この色みたいに、深くて、静かで、どんなに時間が経っても色褪せない」
穂貴さんの声は少し照れくさそうで、でも真剣で、私の心を永遠に囚われた。あの瞬間から、私の胸の奥に藍色の炎が灯り続けている。
心の中で、家族の未来が、優しく、温かく、無限に広がっていく。
これから生まれてくる子が、穂貴さんのような優しい瞳で私たちを見て、初めて笑う日。子が小さな手で穂貴さんの指を握りしめて、「パパ」と呼ぶ日。私が台所で夕飯を作っていると、穂貴さんが後ろから抱きしめてきて、子がその足元で笑いながらじゃれついてくる――そんな、なんてことない日常が、宝物のように輝いて見える。どんなに小さな瞬間も、穂貴さんと一緒なら、永遠の幸せに変わる。
私はそっと顔を上げ、涙で滲む視界の中で穂貴さんの瞳を見つめた。穂貴さんの瞳は、いつもより深く、優しく、私だけを映していた。
「穂貴さん……大好きです。ほんとに、ほんとに大好き。ずっと、ずっと……この家族として、永遠に一緒にいたい」
声が震えて、言葉が途切れ途切れになった。でもそれでいい。穂貴さんはすべてわかってくれる。
穂貴さんが微笑んだ。その微笑みは、世界で一番優しくて、一番温かくて、私の心を溶かす魔法だった。穂貴さんは私の額に、頬に、そっと唇を落とし、それから耳元で深く、深く囁いた。
「俺もだよ、美宙ちゃん。永遠に、永遠に愛してる。この藍君とこの子が、俺のすべてだ。どんな時も、どんなことがあっても、俺が守る。約束する。俺の命にかけて」
その言葉が、私の心の最も深いところまで染み込んで、熱い涙をまた溢れさせた。でも今度は、悲しみの涙じゃない。溢れるほどの幸福の、喜びの、愛の涙だった。
藍色の糸のように、切れることのない、強くしなやかな愛が、私たち家族を優しく、強く、永遠に包み込んだ。お腹の中の小さな命も、すでにこの愛の中心にいる。私たちの愛は、これから生まれてくる子を、そしてその先の未来を、ずっと温かく見守り続けるだろう。
心の奥で、その愛が永遠に続くことを、全身で感じながら、私は穂貴さんの胸に深く身を預け、静かで、でも果てしない幸福に溺れた。この瞬間が永遠に続けばいい。でも、続くのは瞬間じゃない。この愛そのものが、私たちを永遠に繋ぐ。
藍色の空が完全に夜に変わり、星が瞬き始めた頃、私たちはまだ固く抱き合ったまま、未来への優しい夢を、二人で静かに紡いでいた。
――完――


