【中編】激甘すぎる婚前同居。 〜訳アリ令嬢は染織家の盲愛に気づかない〜


「はい。は、始めます……」


 その後、トントンと糸を手元に引き寄せる動作までなんとかできて、「こうですか?」と恐る恐る穂貴さんに聞けば微笑んでくれた。


「うん、完璧。じゃあこのままやっていこうか」


 穂貴さんが柔らかく微笑んでくれた。その笑顔に、胸が熱くなる。不揃いな私の織り目も、彼には温かく見えるらしい。失敗を恐れていた自分が、少しだけ自信を持てた気がした。心の奥で、喜びの涙がにじむ。この共有が、私たちの絆を深めている実感が、切ないほどに強い。
 織り上がった布の一部を見ると、私の手が入った部分は少し粗削りだ。それがかえって優しい表情を生んでいる。穂貴さんの隣で、こんな時間を過ごせる幸せ。孤独だった日々が遠い記憶のように感じる。

 これから先、もっと深く彼の世界に入っていけたら――そんな願いを込めて、私はそっと微笑んだ。
 この幸せが、永遠に続けばいいのに。心の奥底で、切実にそう祈りながら。









 
< 42 / 102 >

この作品をシェア

pagetop