【中編】激甘すぎる婚前同居。 〜訳アリ令嬢は染織家の盲愛に気づかない〜



「は、はいっ」


 織り機の前に座ると、急に緊張で手が冷たくなる。失敗したらどうしよう。穂貴さんの大切な道具を壊してしまったらどうしよう……そんな不安が頭を支配して、肩が固くなり心臓が速く打つ。
 穂貴さんの期待に応えたいのに、こんなに震えてしまう自分が情けない。


「そんなに緊張しないでいいんだよ。肩の力を抜いて」


 穂貴さんは優しく言ってくれたけど、不安は簡単には消えない。心の中で、何度も深呼吸を繰り返す。でも、彼の信頼が嬉しい。
 少しずつ、リラックスしようと自分に言い聞かせる。穂貴さんの声が、安心を与えてくれた。


「ははっ、かわいいなぁ。じゃあ一緒にやろう」


 穂貴さんが笑いながら、私の椅子の隣に座ると、後ろから覆い被さるようにして、私の手に自分の手を重ねてきた。温かい。力強い。彼の手が私の震える手を包み込み、優しく導く。糸の感触、織り機の小さな音、穂貴さんの息遣い――すべてが近くて、心臓がまた激しく鳴り始める。
 でも、今度は緊張だけじゃなくて、喜びが大きい。この支えが、愛情の証のように感じて、胸が熱くなる。穂貴さんの手を通じて、彼の情熱が伝わり、心が溶け合うような一体感が生まれる。


「うん、それでいい。その感覚を忘れちゃダメだよ」


 穂貴さんの声が励ましになって、私は小さく頷いた。心の中で、感謝が溢れる。この瞬間が、永遠に続けばいいのに。


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