【中編】激甘すぎる婚前同居。 〜訳アリ令嬢は染織家の盲愛に気づかない〜
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ところ変わって、家から近くにあるBAR。俺は美宙ちゃんに出かけてくると言って馴染みのBARへと入った。
薄暗い照明の下、カウンターに座って弟と待ち合わせていた。心の中では、彼女を一人残すのが少し心配だったがまだ同居を始めて一週間。彼女の不安定な心が、俺のいない時間に揺らがないか、気になって仕方ない。
でも、弟との時間も必要だ。家族の絆を保つために。
「……兄さん! 久しぶりだね〜」
貴斗の声が、BARの喧騒を切り裂くように響いた。俺の2つ下の弟だ。俺が染織家をすることができているのは、彼のおかげである。
普通なら実家が経営している藤乃出版の社長に俺がなるべきだが、俺が染織の道に進みたいことを知ると、貴斗が社長になると言ってくれた。
その代わり、藤乃家当主としてはよろしく、とは言われたが。あの時、俺の夢を尊重してくれた弟の決断がなければ、今の俺はない。染織の糸を織るように、俺の人生は彼の支えで形作られている。