【中編】激甘すぎる婚前同居。 〜訳アリ令嬢は染織家の盲愛に気づかない〜
家から藤乃出版までは車で三十分掛かる。私は、会社で穂高さんのお母様と待ち合わせだ。お母様は社長室にいるらしく、私もそこまで一緒に行く。
彼曰く、俺の見張り役にでもしたんだろうと言っていたけど、心の中で少し笑ってしまう。穂貴さんの冗談めかした言葉が、緊張を和らげてくれる。でも、車窓から流れる街の景色を見ながら、胸のざわつきが止まらない。
旧華族の家系、出版社の副社長……そんな華やかな世界に、私が入り込んでもいいのか。如月家の別邸で、いつも一人で過ごしたあの部屋を思い出すと、自分が場違いに感じて、息が浅くなる。
「美宙ちゃん、ここだよ。ここは、社長室と会長室、副社長室しかない。エレベーターから降りてすぐが社長室だ」
「そうなんですね……すごい、最上階なんですね」
「まぁね。……はい、到着」
最上階に到着し、エレベーターが開くと穂貴さんと降りる。そしてそのまま真正面にある社長室の扉の前に行くとノックをした。すると中からの返事を聞くと、穂貴さんに手を握られて中に入る。
穂貴さんの手が温かくて、心臓が少し速くなる。この感触が、安心を与えてくれるのに、同時に恥ずかしくて頰が熱くなる。お母様の前で手を繋ぐなんて、どんな風に見られるだろう……。
「あっ、美宙ちゃん! いらっしゃい」