【中編】激甘すぎる婚前同居。 〜訳アリ令嬢は染織家の盲愛に気づかない〜




「美宙ちゃん。俺が迎えに行くから、連絡してね」

「連絡、ですか?」

「うん、そうだよ……あ、そういえば連絡先聞いてなかったよね教えて」

「……あの、穂貴さん。私、連絡する手段のもの持ってなくて」


 実のところ、お嬢様が持っていた連絡手段であろうスマートフォンは持っていない。ほとんど家にいたし、友人もいなかったので必要なことがなかった。
 如月家の別邸で、窓から外の世界を眺めるだけの日々だったし連絡を取る相手がいなかったことが今になって恥ずかしい。


「「え」」


 ワンテンポ遅れて、この部屋にいる私以外の三人が驚きながら声を揃えた。皆の視線が集中して、頰が熱くなる。こんな基本的なものがなくて、申し訳ない。
 心の中で、自己嫌悪が渦巻く。


「すみませんっ! あの、今まで連絡取る人がいなかったので……必要がなくて」

「そうか。じゃあ、買いに行こう。俺は今日仕事をするから帰る時は母さんに連絡してもらおう。その後、一緒に買いに行こうね」


 穂貴さんはなぜか私の頭をなでなでした。穂貴さんの手が優しくて、胸がきゅっと締めつけられる。こんなに甘やかされて、嬉しいのに、怖い。
 いつか、この優しさがなくなったらどうしよう……。するとお母様が「穂貴くん、そろそろ行くから離してくれる?」と彼に問いかけた。
 穂貴さんはやっと手も離してくれてお茶をしに行くことになった。離れた瞬間、少し寂しくて、心の中でため息を吐いてしまった。



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