【中編】激甘すぎる婚前同居。 〜訳アリ令嬢は染織家の盲愛に気づかない〜
第6話【わたしを抱いてください】
「……そらちゃん? そろそろ、媒染剤を入れてもいいと思うよ。梔子の染料、十分に染まってるし」
「えっ、あっ、ごめんなさい」
私は慌てて作業台に置いてあるミョウバン媒染剤を手に取り、鍋に入れて糸をその中へ沈めた。
染色をして媒染をする工程……今からは、お湯が四十度くらいになったら二十分ほど時々かき混ぜながら煮る。それが終わったら水洗いをし染料を洗って、好みの色になるまで何度も同じ作業を繰り返し、今度は媒染剤に二十分つけておいてよく水で洗い、日陰で干す……のだけど。
頭ではわかっているのに、手が止まっていた。
ぼーっとしていたからか、まだ染料が作れたところで作業が滞っていた。最近、穂貴さんのお母様に言われたことが頭から離れない。ただ旧華族だったことを悩んでいるんじゃなくて、なぜ穂貴さんは教えてくれないのか……それが一番の葛藤だ。あの事実を知ってから、数日経ったけど、穂貴さんに聞けなくて、胸の奥がもやもやする。信じていたのに、秘密があったなんて。
もしかして、私の過去を知っていて、政略的に近づいた? そんな疑念が、心を蝕む。でも、穂貴さんの優しさを思い浮かべると、そんなことないって信じたい。矛盾した感情が、頭をぐるぐる回って、少しだけ寝不足だった。夜、ベッドで目を閉じても、お母様の言葉がリプレイされて、眠れない。
子供のことも言い出せないでいるし……妊娠なんて、想像しただけで体が熱くなる。怖いのに、どこかで穂貴さんの子を宿したいという欲求が芽生えている自分がいる。
この葛藤が、作業に集中できない原因だ。穂貴さんの横顔を見ると、胸がきゅんと疼く。こんなに近くにいるのに、心の距離を感じて、切ない。