【中編】激甘すぎる婚前同居。 〜訳アリ令嬢は染織家の盲愛に気づかない〜
それに、如月家の娘として引き取られたのに、来た当日には別邸に住むように言われたのだ。
別邸といっても、本邸を見たことがないのでなんとも言えないが……一軒家ほどの小さな家。ほとんどここにはいないけど使用人は一応一人いる。水道も電気も通っているしキッチンもあって調理器具もある。
なんでも揃っているからとても充実していたんだけど、心のどこかでいつも寂しさがあった。
本邸の賑わいを想像するだけで、羨ましさと諦めが混じり合う。こんな生活が、いつまで続くのか……と思っていたのに、今日、それが変わる日が来たみたいだ。
「相手は、フジノ出版の副社長の藤乃穂貴くんだ。とても優秀な方で、旧華族なのだよ」
「……ふじの、さん」
「あぁ。だから、明日会うことになった。だから当日は、車を出そう」
だけど、そんな毎日は終わりらしい。
しかも、車まで出すなんて、そんなにすばらしい人なのだろうか。心の中で疑問が膨らむ。
穂貴さんという人、どんな人だろう。優秀で旧華族なんて、私のような養女には釣り合わないんじゃないか。きっと、冷たい視線で私を見るんだろうな……そんな想像が、不安を煽る。
でも、拒否なんてできない。この縁談が、私の役割を果たすチャンスなんだから。旦那様の期待に応えなければ、せめてそれだけは。