【中編】激甘すぎる婚前同居。 〜訳アリ令嬢は染織家の盲愛に気づかない〜
第8話【失われた記憶の真実】
あの夜から、私の心は穂貴さんの言葉で少しずつ癒され始めていた。幼い頃に出会っていたなんて驚いたが、同時に、心の奥底で新たな疑問が芽生えていた。
あの事故の詳細。
穂貴さんが教えてくれたのは大まかなことだけだったけど、もっと知りたい。知らなければいけない気がする。私の過去、私の両親、私の失われた記憶……それを知ることで、ようやく自分自身を完全に受け入れられるのかもしれない。
でも、怖い。知ったら、もっと悲しくなるんじゃないか。胸が締めつけられるような痛みが、夜毎に訪れる。穂貴さんの腕の中で眠りにつくたび、そんな葛藤が胸を締めつける。穂貴さんの温もりが優しくて、安心するのに愛されている実感が強くなっていくほどに過去の空白が重くなり息が苦しくなる。
翌朝、穂貴さんがキッチンで朝食を作っている姿を見ながら、私は意を決した。穂貴さんの背中が広くて、頼もしくて、胸がきゅんとする。穂貴さんの手が卵を優しくかき混ぜる様子、穂貴さんの横顔が朝の光に照らされる様子――すべてが愛おしくて、胸が熱くなる。でも、声を出すのが怖い。言葉にしたら、すべてが変わってしまうんじゃないかと思ってしまう。