【中編】激甘すぎる婚前同居。 〜訳アリ令嬢は染織家の盲愛に気づかない〜
穂貴さんは私をソファに座らせて、隣に座った。手を握って、優しく包み込んでくれる。その温もりに、心が少し落ち着く。穂貴さんの指が私の指に絡み、穂貴さんの瞳が私を優しく見つめた。
「事故が起きたのは、美宙ちゃんが10歳の時。家族旅行中のことだった。場所は、箱根の別荘に向かう山道。君のお父様が運転してて、お母様と君が後部座席にいたんだ。対向車線から来たトラックがスリップして、正面衝突した。原因は、トラックの運転手の居眠り運転だったらしい。雨が降ってて、道が滑りやすかったのも重なって……衝突の瞬間、君のお父様はハンドルを切って君たちを守ろうとしたんだと思う。お母様は君を抱きしめて、シートベルトで固定しようとしたって……」
穂貴さんの声が低くなる。胸が締めつけられて、息が苦しい。想像しただけで、涙が溢れる。
私の両親は、その時、何を思っていたんだろう。私を抱きしめて守ろうとしてくれたのかな……記憶はないはずなのに、心が痛くて、胸が張り裂けそうになる。
「衝突の衝撃で、車は崖下に転落した。お父様とお母様は即死だった。美宙ちゃんは、奇跡的に生き残った。だけど、重い頭部外傷で記憶を失ったんだ。意識が戻った時、君はわけもわからないまま施設に預けられてた。鷹司家に親族がいなかったから、身元不明のまま……ニュースでは『奇跡の生存者』って呼ばれてたけど、俺はただ、君が無事でいてくれたことに、心から安堵したよ。でも、記憶がないって知った時、胸が張り裂けそうだった」
言葉が胸に突き刺さる。涙が止まらなくて、穂貴さんの胸に顔を埋める。穂貴さんが強く抱きしめてくれる。温かくて、優しくて、悲しみが少し和らぐ。でも、痛い。だけど……私、両親の顔さえ思い出せないのに、守ってくれたのだから愛されていたんだって思ったら嬉しくなった。