僕と影と猫娘
「……ここは」
「ここは、はざま」
目が覚めたら、薄暗い部屋で、僕は座っていた。
僕の膝の上には猫娘がしがみついて寝ていた。
「狭間?」
「あのよと、このよの、はざま」
「僕、死ぬの?」
「しなない。あたしとあそんで」
「帰らないと」
「にゃー。あたし、あなたがいないと、さびしいの」
猫娘の話し方が、昔みたいに子どもと猫を混ぜたような話し方になっていた。
僕は猫娘の髪を撫でた。
……猫娘の髪に、僕の影が落ちなかった。
猫娘に気づかれないように、目だけ動かすと、彼女には影がある。
「ここ、なに?」
「えっと、おてらって、いうみたい」
周りを見たら、広い和室みたいだった。
学校の教室くらいだろうか。襖に囲まれていて、その影が畳に落ちていた。
僕の影だけがない。ならまあ、大丈夫だろう。
猫娘を撫でながら、父さんが言っていたことを思い出した。
「人間と、それ以外の生き物は、友達にはなれない」
本当に、そのとおりだったみたい。
僕がこの子に優しくしていたのは、結局僕の自己満足でしかなかった。
「僕のこと、好き?」
「うん。すき。ずっとすき」
「……僕も好きだよ。だからこそ、一緒にはいられないんだ。ごめんね。僕が甘えたから」
猫娘が顔を上げた。
大きな目をまん丸にして、すぐに悲しいような怒ったような顔で起き上がった。
「なんで」
「きみが猫娘で、僕が人間だから」
「おとなになっちゃったの?」
「そうかも」
立ち上がったら、猫娘が手を伸ばした。
その手が僕をつかむ前に、僕らの間に影が立ち塞がった。
ふすまが開いて、父さんが入ってくる。
「帰るぞ」
「やだ!」
猫娘が泣きそうな声で叫んだけど、父さんは無視して僕の腕を掴んだ。
「さよなら」
「や、やだ! いかないで!」
「僕は、きみと一緒にはいられない」
「なんで!?」
「きみが猫娘で、僕が人間だから」
追いすがろうとする猫娘を、影が押しとどめた。
僕は振り返らずに、父さんと帰った。
「ここは、はざま」
目が覚めたら、薄暗い部屋で、僕は座っていた。
僕の膝の上には猫娘がしがみついて寝ていた。
「狭間?」
「あのよと、このよの、はざま」
「僕、死ぬの?」
「しなない。あたしとあそんで」
「帰らないと」
「にゃー。あたし、あなたがいないと、さびしいの」
猫娘の話し方が、昔みたいに子どもと猫を混ぜたような話し方になっていた。
僕は猫娘の髪を撫でた。
……猫娘の髪に、僕の影が落ちなかった。
猫娘に気づかれないように、目だけ動かすと、彼女には影がある。
「ここ、なに?」
「えっと、おてらって、いうみたい」
周りを見たら、広い和室みたいだった。
学校の教室くらいだろうか。襖に囲まれていて、その影が畳に落ちていた。
僕の影だけがない。ならまあ、大丈夫だろう。
猫娘を撫でながら、父さんが言っていたことを思い出した。
「人間と、それ以外の生き物は、友達にはなれない」
本当に、そのとおりだったみたい。
僕がこの子に優しくしていたのは、結局僕の自己満足でしかなかった。
「僕のこと、好き?」
「うん。すき。ずっとすき」
「……僕も好きだよ。だからこそ、一緒にはいられないんだ。ごめんね。僕が甘えたから」
猫娘が顔を上げた。
大きな目をまん丸にして、すぐに悲しいような怒ったような顔で起き上がった。
「なんで」
「きみが猫娘で、僕が人間だから」
「おとなになっちゃったの?」
「そうかも」
立ち上がったら、猫娘が手を伸ばした。
その手が僕をつかむ前に、僕らの間に影が立ち塞がった。
ふすまが開いて、父さんが入ってくる。
「帰るぞ」
「やだ!」
猫娘が泣きそうな声で叫んだけど、父さんは無視して僕の腕を掴んだ。
「さよなら」
「や、やだ! いかないで!」
「僕は、きみと一緒にはいられない」
「なんで!?」
「きみが猫娘で、僕が人間だから」
追いすがろうとする猫娘を、影が押しとどめた。
僕は振り返らずに、父さんと帰った。