(悩める)リケジョの白井さんと(気ままな)リケダンの日高くん
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 進学校の高校三年生ともなれば、大学受験生である。
 四月に進路希望調査が行われたが、ここに今までのような軽い雰囲気はまったくなかった。この先受ける校外模試に浪人生が加わわっていれば、返ってくる成績だって厳しいもの。
 そう、いままでのように漠然と「理学部へいきたいな」と思うことは、もう許されないのだ。
 就職を考えて進路選択しなさいといわれれば、理系女子なんて「医療系」が最有力候補になる。
 でもな~と私は、憂鬱になる。
 なぜなら、誰にでも優しく接することができるような、博愛の気持ちが私には希薄だから。人見知りはするし、嫌なものには即座に回れ右をする私に、医師や看護師のような仕事はできない。
 理学部へ進学すれば、就職先は教師一択らしい。これも自分が教師に向いているとは思えない。
 そうとなれば別の方向を探るのだが、他にどんな学部があるだろう?
 私は、考えた。私なりに。

 (探せばもっと、いいのが出てくるかもしれない。ていうか、出てきて!)
 とにかく医療系だけは無理だから、主張できなければ、ごり押しされる。

 (日高くんだって、研究中だっていっていたし)
 ちょっと特殊な進路希望を口にし、それに向かって試行錯誤する彼を思い起こす。同じ高校生なのだ、私にだってできるはず。

 (一般的なガイドラインに含まれない領域は、まだ調べていないし)
 日高くんは、卒アル委員だけでなくクラス副委員長も兼任していた。それをこなすために卒アル委員会で日高くんは、いろいろ工夫をして乗り切った。彼の姿は「柔軟に思考して実践する」の手本そのものであった。
 その行動を目の当りにして、いかに自分が既成観念に囚われているかを知る。

 そんな彼に触発されて、諦めるのはまだ早いと奮闘する。あれこれする中でふと私は気がついた。農学部という学部に。
 学部名から無意識のうちに進路選択から外していたが、あらためて調べてみれば意外と女子の数が多い。就職先だって農業以外に化学系の会社もあり、多岐にわたる。全然、土臭くない。これだと、思ったのだった。


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