窓明かりの群れに揺れる
 スマホが震えた。
 画面には「母」の文字。

 『春奈? 最近連絡してこないから……』

 それだけで、
 涙腺がきゅっと熱くなる。

 「ちょっと、風邪ひいちゃってさ……」

 何とか声を整えて答える。
 でも、母にはごまかしがきかない。

 『本当に? 
  ずっと無理してたんじゃない?』

 「大丈夫だよ。
  ちょっと寝たら、すぐ治るから」

 自分で言いながら、
 その「すぐ」がいつなのか、
 まったく見えない。

 『あんまり頑張りすぎないでね。
  辛かったら、いつでも戻っておいで』

 「……うん。ありがとう」

 短くそう言って通話を切ると、
 部屋がまた、音のない水槽みたいに
 静まり返った。

 (このままだと、本当にわたし壊れちゃうかも)
 ふと、そんな考えが頭をよぎった。

 布団の中で丸まっていると、
 現実と妄想の境目がどんどん曖昧になっていく。

 ありえない
     「もしも」を何度も想像しては、
 勝手に傷ついて、
 また涙が出る。
 その繰り返しだった。
 (外、出よう)

 唐突に、
 自分で自分に命令するみたいにそう思った。

 服を着替える力も出なくて、
 適当なパーカーとジーンズを引っかける。
 髪もまとめないまま、
 ふらふらと玄関のドアに手をかけた。

 冷たい空気が、頬に当たる。
 それだけで、
 少しだけ現実に引き戻される。
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