泡沫少女は愛を知らなかった。

夢由良少年。

少年は、周囲から見ると「普通」だった。

よく笑い、空気を読み、必要な言葉を選ぶことができた。
人付き合いに困ることもない。

むしろ、器用なほうだった。

だがその笑顔は、彼自身に向けられたことがなかった。

笑うのは癖のようなもので、感情の発露ではない。

誰かに求められた役割を、無意識に演じているだけだった。

彼は知っていた。

自分がどこか空洞であることを。

心を許す、という行為がどういうものなのか、彼は実感として理解できなかった。

信じるとは何か。

誰かの存在を、自分の内側に迎え入れるとはどういうことなのか。

愛するとは何か。

少年は「大切にする」「される」という感覚を、名前だけで知っている存在だった。

考えれば考えるほど、言葉は空回りした。

だから彼は、深く考えないようにしていた。

笑っていれば問題は起きない。

適切な距離を保っていれば、傷つくこともない。

そうやって、彼は自分を守ってきた。
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