泡沫少女は愛を知らなかった。

出会い。

二人が出会ったのは、ただの小さな図書館。

ただの偶然で、ただのきっかけだった。

「それ、好きなんですか?」

たまたま隣に座っていた少年が少女に声をかける。

「シンデレラ。素敵な話ですよね。」

「そうですね。…とても。」

最初の印象を、少女ははっきり覚えていない。

特徴的な何かがあったわけではない。

ただ、少年の存在が、妙に静かだった。

話しかけられ、言葉を返す。

会話は途切れがちで、沈黙が何度も訪れた。

それでも、彼女は居心地の悪さを感じなかった。

沈黙は通常、人と人の距離を浮き彫りにする。

だがその沈黙は、距離というより、共通の空白のように思えた。

少年も同じ感覚を覚えていた。

無理に話題を探さなくていい。

自分を大きく見せる必要もない。

――この人の前では、何も持っていなくてもいい。

その感覚は、二人にとって未知だった。
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