これはもはや事故です!
 テーブルに運ばれた温かい料理。
 向かい合って食べる夕飯。

 何気ない時間なのに、落ち着かなくて、でも、離れたくなくて。

「……美羽さん」

「はい?」

「昼間、一人で平気だったか?」

 責めるでも、探るでもない問いかけ。
 美羽は一瞬、答えを探してから、正直に口を開いた。

「……少し、寂しかったです」

 言えたことに、美羽は自分で驚く。
 磯崎は何も言わず、箸を置き美羽を見つめた。
 美羽は、視線を落とし独り言のようにつぶやいた。

「私……今まで、一人でいるのが当たり前だったのに……今日、一人でいるのが、寂しかったんです」

 ぽつり、ぽつりと、言葉がこぼれていく。

「私が……高校を卒業した年に、両親が離婚して……それぞれ、新しい家庭を作って……」

 声が震えないように、テーブルを見つめたまま続ける。

「どっちも、“もう大人でしょ”って……私のこと、邪魔みたいで」

 美羽の独白を磯崎は遮らなかった。

 相槌も、同情もない。
 ただ、黙って聞いてくれる。

「私、一生懸命、役に立とうと頑張ったのに……。それでも邪魔だったみたいで……。それから……誰かに頼るの、苦手で……」

 最後は、ほとんど独り言だった。

 沈黙が落ちる。
 でも、重くはない。

 しばらくして、磯崎が静かに口を開いた。

「……それは、寂しかったな」

 短い言葉。
 でも、そこには否定も、説教もなかった。

「大人のエゴで、一人に、させられてたんだな」

 美羽の喉が、きゅっと鳴る。

「……俺のところでは、無理しなくていい。我が儘を言って甘えてもいいんだ」

 二人の視線が重なる。

「役に立たなくても、何もしなくても……ここにいていい」

 その言葉が、美羽の胸の奥に、静かに染み込んでいく。

(……信じてみたい)

 そう思えた自分に、美羽はそっと息を吐いた。

 甘える練習は、まだ始まったばかり。
 でも……確かに、受け止めてくれる人が、目の前にいた。
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