これはもはや事故です!
 しばらく、ふたりの間に穏やかな沈黙が流れた。
 スープの湯気がゆらりと立ちのぼり、時計の秒針だけが静かに進む。

(……甘えていい、って言われたけど)

 どうやって?

 美羽はスプーンを持ったまま、内心で固まっていた。

(甘えるって……何? 急に膝に乗る? いや、それは違う。絶対違う)

 考えすぎていると、磯崎がふと視線を向けた。

「……どうした。スープ、熱いうちが美味いぞ」

「はっ……! い、いただきます!」

 慌てて口に運ぶ。
 少し熱くて、舌先がピリッとした。

「……あつっ」

「ほら、慌て過ぎだって」

 磯崎は苦笑しながら、さりげなくマグを少し手前に引き寄せる。

「……猫舌か?」

「そ、そんなこと……ないです……たぶん……」

 たぶん、というところが怪しい。

「たぶん?」
そう言って、磯崎はクスッと笑う。

(……今だ。何か、甘えるチャンス……!)

 美羽は意を決して、スプーンを置いた。

「あ、あの……」

「ん?」

「その……もし……よかったら……」

 声が小さくなっていく。

「……おかわり、お願いしても……いいですか……?」

 美羽は精一杯、甘える努力をしたつもり……。
 だけど、的がハズレすぎている。
 ただの食いしん坊だ。
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