これはもはや事故です!
 たくさんのキスを重ねるうちに、美羽の胸の奥は甘い感情で満たされていく。
 首筋にかかる吐息に、美羽は思わず身をよじらせた。

(……心が、くすぐったい)

 触れ合うほどに、磯崎の体温がはっきりと伝わってくる。
 そのぬくもりに包まれながら、美羽は、自分の中にあった不安や寂しさが、少しずつ溶けていくのを感じていた。

(私が……何もできなくても、無理に頑張らなくても、「それでいい」「甘えていい」と磯崎さんは伝えてくれた)

 美羽はそっと、磯崎の胸に額を預けた。 
 抱きしめられた腕の中で、美羽は、胸の奥が静かに満たされていくのを感じていた。
 どきどきしているのに、不思議と落ち着く。
 ひとりでいるときには、決して味わえなかった感覚だった。

(……ああ、幸せ)

 そう思った瞬間、理由を探そうとしている自分に気づく。
 でも、すぐにやめた。

 そっとまぶたを開くと、視線が絡み、また唇を重ねる。
 特別な言葉があったわけでもない。
 何かを約束されたわけでもない。
 ただ、こうして抱かれて、温度を分け合っているだけなのに、それで、十分だった。

 磯崎の胸に耳を当てると、少し早い鼓動が伝わってくる。

「美羽……愛してる」

「私も……」

「ずっと一緒にいてくれ」
 
(ここにいていいんだ)

 役に立つかどうかも、何かを返せるかどうかも、今は考えなくていい。
 そう思えることが、何よりも嬉しかった。

「はい……」

 そっと腕に力を込める。
 離れないように、確かめるように。

 その小さな仕草を受け止めるように、磯崎の腕も、ほんの少しだけ強くなった。
 
 それだけで、胸がいっぱいになる。
 言葉はいらない。
 今、この瞬間が、ちゃんと幸せだと、わかっていた。
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