これはもはや事故です!
部屋の引き渡しは、驚くほどあっさりしていた。
担当の人に簡単な確認を受けて、書類にサインをして、最後に鍵を差し出す。
「お世話になりました」
自分の声が、思ったより落ち着いていて、美羽は少しだけ驚いた。
マンションの外に出ると夕方の風が頬に触れた。
少しだけ冷たくて、現実的で、それが、かえって心地いい。
美羽は、横に居る磯崎の袖をそっと掴む。
「……寒くないか?」
「はい」
「無事に済んでよかったな」
「誠さんが付き添ってくれたから、退去費用ぼられずに済みました」
そう言って、美羽はふふっと笑う。
それだけのやりとり。
でも、胸の奥で、きちんと区切りがついたのを感じる。
磯崎は、少し進んで、立ち止まる。
「……帰ろう」
行き先を確認する言葉じゃなかった。
選択肢を与えるでもない。
当たり前のように、自然に出た一言。
美羽は、その背中を見つめてから、小さく頷いた。
「……はい」
夕日を背に受けた二人の影が、並んで地面に伸びている。
その影は、自然に寄り添って見えた。
しばらくして、見慣れた建物の前に着く。
磯崎の部屋。
鍵を取り出す音がして、
ドアが開く。
――カチャ。
室内から、静かな空気が流れ出てくる。
美羽は、一瞬だけ、足を止めた。
ここは、癒してくれた場所。
「どうした」
「……いえ」
首を振って、一歩踏み出す。
玄関に入ると、靴箱、壁、照明。
もう、見慣れたはずの景色。
それなのに、今日だけは、少し違って見えた。
“戻ってきた”という感覚。
磯崎が、ごく自然に言う。
「今日は寒かったな」
「はい」
それだけの会話なのに、
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
美羽は、靴を揃えながら、静かに思った。
(もう、帰る部屋はひとつだ)
担当の人に簡単な確認を受けて、書類にサインをして、最後に鍵を差し出す。
「お世話になりました」
自分の声が、思ったより落ち着いていて、美羽は少しだけ驚いた。
マンションの外に出ると夕方の風が頬に触れた。
少しだけ冷たくて、現実的で、それが、かえって心地いい。
美羽は、横に居る磯崎の袖をそっと掴む。
「……寒くないか?」
「はい」
「無事に済んでよかったな」
「誠さんが付き添ってくれたから、退去費用ぼられずに済みました」
そう言って、美羽はふふっと笑う。
それだけのやりとり。
でも、胸の奥で、きちんと区切りがついたのを感じる。
磯崎は、少し進んで、立ち止まる。
「……帰ろう」
行き先を確認する言葉じゃなかった。
選択肢を与えるでもない。
当たり前のように、自然に出た一言。
美羽は、その背中を見つめてから、小さく頷いた。
「……はい」
夕日を背に受けた二人の影が、並んで地面に伸びている。
その影は、自然に寄り添って見えた。
しばらくして、見慣れた建物の前に着く。
磯崎の部屋。
鍵を取り出す音がして、
ドアが開く。
――カチャ。
室内から、静かな空気が流れ出てくる。
美羽は、一瞬だけ、足を止めた。
ここは、癒してくれた場所。
「どうした」
「……いえ」
首を振って、一歩踏み出す。
玄関に入ると、靴箱、壁、照明。
もう、見慣れたはずの景色。
それなのに、今日だけは、少し違って見えた。
“戻ってきた”という感覚。
磯崎が、ごく自然に言う。
「今日は寒かったな」
「はい」
それだけの会話なのに、
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
美羽は、靴を揃えながら、静かに思った。
(もう、帰る部屋はひとつだ)