これはもはや事故です!
「ほら。ここならゆっくり眠れる」

 ベッドの端にゆっくり下ろされた美羽の身体が、柔らかなマットレスに沈みこむ。

 磯崎は一度だけ美羽の足元を確認し、包帯がズレていないか丁寧に確認した。

「布団かけるよ。寒くない?」

「え……あ……だ、大丈夫です……」

 近い距離に美羽の鼓動が早くなる。
 
「……じゃあ、俺はリビングにいるから」

「えっ……あの……」

 言いかけた言葉が喉で止まる。

(本当に何もしないで、私を優先してくれている)

 磯崎の優しさに、美羽の体温が上がる。

 磯崎は立ち上がり、ベッドの横で小さく息をついた。

「美羽さん。何かあったら呼んで、すぐ来るから」

「……はい」

 たった一言の返事が、精一杯だった。

「じゃあ……おやすみ」

 柔らかな声を残して、磯崎は静かに寝室を出ていった。

 扉が閉まる音。
 部屋に残された美羽は、ふぅ~っと息を吐いた。

 布団に潜りこむと、オリエンタルノートがふわりと漂う。

(……磯崎さんの香りが残っている)

 さっきまでずっと近くで感じていた体温と香りが、ベッドの上にまだ薄く漂っている気がした。

 頬が、熱い。

(なんで……こんなに……ドキドキするの……?)

 何もされていないのに、優しく抱き上げられただけなのに、彼のベッドで眠るというだけで胸の鼓動が早くなる。

「……はぁ……無理……」

 顔が熱くて美羽は眠れそうにない。
 リアルの男性なんて意識した事なんてなかった。いままで、憧れのキャラを妄想するだけで満足だった。
 男女の恋愛なんて、自分には遠い出来事だと思っていた。
 
 だから、磯崎との近い距離にそわそわする。
 
(やだ……どうしよう……磯崎さんの匂い、する……)

 布団に顔を埋めると、またほんのり、あの香水の香りがした。

 胸の奥がまた跳ねる。

(これじゃ……眠れない……)

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