これはもはや事故です!

寝室を出たあとで、俺は……

 寝室の扉を静かに閉めた磯崎は、背中にまとわりついていた緊張が一気に落ちて、廊下の壁に手をついた。

(……危なかった)

 声に出しそうになって慌てて飲み込む。

 危ない?
 何が?

 それは、自分の感情だ。

(あのまま傍にいたら……絶対に、自分を抑えられなくなっていた)

 美羽を抱き上げたときの体温。
 ベッドに下ろした瞬間にふわりと漂う花のような甘い香り。
 大きな瞳を不安そうに揺らしながら、自分を見上げる顔。

 (全部、刺さった。)

 しかも、怪我して痛むのに、必死で強がって……それでも自分を信じようとしてくれる。

(……あんな顔、反則だろ)

 髪を乱暴にかき上げる。
 こんなふうに心が乱れるのは、いつ以来だろう。

(守りたい、って……こんなに強く思うなんてな)

 もしも、気持ちを打ち明けたとしたら……。

 『たった数時間、話しただけで、好きだとか言うの?』
 『それって、信用できない』

(俺の事を女たらしだと思っている美羽さんは、そう思うかもしれない。)
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