これはもはや事故です!

 仕事で疲れた日、1階にあるカフェに立ち寄るのが磯崎のルーティンになっていた。
 そして、美羽の笑顔を見るだけで癒され、気持ちが少し軽くなる。
 いつしか、美羽を目当てに、何かと言えばカフェに足を運ぶことが多くなった。
 そんな自分を認めたくなくて、心の奥にある感情にそっと蓋をしていた。


 ため息をつきながら、磯崎はソファに深く座り込む。
 胸の奥のざわつきは、一向におさまらない。

 寝室の方を見ると、扉の向こうで彼女が動いた気配がした。

(眠れないよな……あんなふうに震えてたし)

 さっきの美羽の顔が脳裏に浮かぶ。
 俯きながら必死に声を絞り出す姿……。

(……怖がらせたくない。絶対に)

 ふっと息を吐く。

「あいつら……絶対に許さない」

 低く呟いた声は、自分でも驚くほど冷たかった。
 ソファに深く座り込み、拳を固く握る。

 リビングの間接照明がゆらりと揺れ、扉の向こうに想いが向かう。

(美羽さん……ちゃんと眠れているか……)

 本当は今すぐ見に行きたい。
 呼吸が乱れてないか、痛みが増してないか、
 泣いていないか。

(でも……あのドアを開けるのはダメだ。怖がらせたくないんだ……。)

 
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