これはもはや事故です!
 修羅場の真っ只中で助けてくれたこと。
 病院でもずっとそばで支えてくれたこと。
 足を痛めた美羽を抱き上げて、ここまで運んでくれたこと。
 朝起きたら、自分のために用意された温かい朝食がテーブルにあったこと。
 
 一つ一つ思い返すたびに、美羽の胸はじんわりと熱くなる。

(……ここまでしてくれる人が……悪い人のわけ、ない)

「磯崎さん、すごく……良い人だよ」

『……それ!女たらしは優しいの!だからみんな勘違いするの!』

「……っ!」

 反論しようとしたのに、言葉が出ない。

(優しい……から……?まさか……)

 胸の奥がツキンと痛んだ。

『いい?美羽。ステータスも高くてイケメンの男になんて、本気になったら傷つくだけなんだから。気をつけてね』

「……うん」

『じゃ、休んで。お大事にね』

 通話が切れると、部屋には、急に静けさが戻った。
 美羽はスマホを握ったまま、ぼんやり天井を見上げる。

 磯崎のことを思うと心臓がじくりと痛む。

 あの腕の中の温もり。
 香水の香り。
 優しい声。
 近すぎる距離。
 抱き上げられた感触。

 全部、思い出すだけで胸が熱くなる。

(……だめだよ。真美ちゃんの言う通り。私、勘違いしちゃだめ……)

 車いすのハンドルを握る手に、ぐっと力が入った。

「……距離、置かなきゃ」

 小さく呟いた言葉が、自分でもびっくりするほど弱く震えていた。

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