これはもはや事故です!
 ベッドに腰かけた美羽は、何かを決意したように瞼を閉じた。
 思い浮かべるのは、磯崎と過ごした日々。

 料理も掃除も、全部やってくれた。
手伝うと言っても、「無理をすると治らないから」と手を出させてもらえなかった。
 仕事も忙しいはずなのに、帰るとすぐ「痛みはどう?」と気にかけてくれた。

 嬉しくて。
 あったかくて。
 でも、やっぱり、このまま甘えてはいけない。

(……今日、言おう)

 そう決めた途端、胸の奥がぎゅっと痛み、緊張で、手のひらがじんわり汗ばむ。
 深く息を吐き出し、美羽は立ち上がると、足を庇いながら、ゆっくりとリビングへ向かう。

「磯崎さん、あの……少し、お話が……」

 ソファで書類を読んでいた彼が、顔を上げた。

「どうした?足が痛むのか?」

「い、いえ。そうじゃなくて……その……」

 息を深く吸い込み、勇気を振り絞る。

「あの、いままでありがとうございました。そろそろ……家に帰ります」

 磯崎の手がぴたりと止まり、こちらを見つめた。
 驚いたような、それとも別の感情なのか、その目が読めなくて、美羽の胸がざわつく。

(……やっぱり、私、ちゃんと距離を取らないと)
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