これはもはや事故です!
 玄関に行くと、ジャケットを羽織った磯崎が美羽を待っていた。

「それ、履いて」

 磯崎が美羽に差し出したのは、足を包み込むような形のシンプルなサンダルだった。

「……これ……?」

「足、まだ完全じゃないんだから、今日はこれで」

 言われて、美羽はハッとする。

(そうだ。あの日、治療を受けた後、そのまま磯崎さんの家に運ばれて……ケガした状態で履ける靴なんて、すっかり頭から抜け落ちていた)

「……すみません」

「謝らなくていいよ」

 美羽は壁に手をつきながら、そっとサンダルに足を通した。
 思った以上に、足首が安定する。

(……歩きやすい)

 それに、サイズも、驚くほどぴったりだった。

「……これ、どうしたんですか?」

「事務所の帰りに買ったんだ。合わなかったら、別のにするつもりだったけど……」

 言葉を濁すように、視線を逸らす。

(……そこまで、考えてくれてたんだ)

 胸の奥が、じんわりと温かくなる。
 同時に、その優しさが、少しだけ怖かった。

(……だから、勘違いしちゃうんだよ……)

 でも、口には出せない。

「……ありがとうございます」

 そう言うと、磯崎は小さくうなずいただけだった。

 そして、スーツ姿の磯崎に支えられて、エントランスを抜けると外の空気がひんやりと頬を撫でた。

(……帰るんだ。本当に)
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