これはもはや事故です!
 車に乗り込むと、磯崎が美羽のシートベルトをそっと整える。
 瞬間、指先がかすかに触れた気がして、美羽の心臓がどくっと跳ねる。

「足、痛くない?」

「だ、大丈夫です……」

 本当はまだ痛い。
 でも、弱音を吐くことに慣れていない美羽は言う事が出来なかった。

 車が静かに走り出し、窓の外が夕方の光に染まりはじめる。

 しばらく沈黙が続いたあと、磯崎が口を開いた。

「……本当に、一人で大丈夫か?」

「はい。……慣れてますから」

 口にした瞬間、美羽の胸がちくりと痛んだ。

(……そうだよね。私はずっと……ひとりでやってきたんだから)

 美羽が高校を卒業した春、両親は離婚した。
 長年仲が悪かったから、驚きはしなかったけれど。

 そのあと二人とも別々に再婚して、新しい家庭があっという間にできあがった。

 どちらの家にも帰れるけれど、どちらにも“美羽の居場所”はもうなかった。

 だから……。

 ひとりで生きることに慣れた。
 誰にも迷惑をかけないように。
 助けを求めないように。

(誰かに甘えるなんて、慣れてないし……そんな感覚、忘れてたのに……)
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