これはもはや事故です!

気合があれば……

 久しぶりに自分の部屋で朝を迎えた美羽は、カーテンを左右に開け放った。パァッと明るい日差しを浴びても、気持ちは晴れなかった。

(今日……なんだか、足が痛い)

 ゆっくり足を踏み出すと、ズキン、と足首が抗議するように痛む。

「いっ……!」

 壁に手をつかなければ、とても歩けそうにない。
 たった少しの動作が、もう大変だ。

「気合があれば、何でも出来るっ!」

 独り言が、空気に溶ける。自分の部屋だけど、空気は冷えていて、どこかよそよそしい。

(昨日まで……磯崎さんがそばに居てくれた)

 抱き上げてくれた腕。
 支えてくれた温度。
 朝ごはんの優しい香り。
 静かに名前を呼ばれた声。

(……だめ。思い出すと余計にキツい)

 気持ちをごまかすように息を吐き、キッチンに向かう。

「いっ、たぁー」

 歩くたびにと、ツキンとイヤな痛みが走った。
 これが磯崎さん家だったら、直ぐに彼が飛んで来て「無理しちゃだめだ」と手を差し出してくれただろう。
 でも、その優しさは、ケガをさせた責任からで、勘違いをしてはいけないものだ。

「あの優しさ……中毒性あって困る……」

 狭い我が家で一人きり。
 どうにか冷蔵庫の前にたどり着いた。しかし、ドアを開けた瞬間、ため息しかでない。
 冷蔵庫の中身たるや、賞味期限の切れた牛乳、ラップのかかった残り物のおかず、しなびた野菜……。
 みんな捨てないといけない。

「あーっ、それはそう。1週間も居なかったんだもん」

 わざと明るく発した言葉は部屋に溶け、虚しさだけが残った。

「買い物に行かないと、食べるものないや……」
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