これはもはや事故です!

ひとりでも……

 美羽は、冷蔵庫の前で動けずにいた。

 母の声が耳の奥に残っている。
 明るくて、楽しそうで、娘の存在なんて少しも引っかかっていない声。

(……そうだよね。私はもう、お母さんの家族じゃないんだ。)

 スマホをテーブルに置いて、美羽はゆっくりとベッドに腰を下ろした。

 足首が熱を持ち、じん……と痛みがぶり返す。
 さっきスーパーで無理をしたせいだ。
 湿布を貼り直そうと、立ち上がった拍子にバランスを崩して、ふらっと体が揺れる。

「……っ」

 慌てて壁に手をつくと、「はぁ」と大きなため息が出る。

 この部屋には、支えてくれる腕も、「大丈夫?」と声をかけてくれる人もいない。

(……大丈夫。これまでだって、独りでやってきたんだから)

 そう強がってみても、あの温かな部屋を思い出してしまう。

 低い声。
 支えてくれた力強い腕。
『痛みはどう?』

 あの一言だけで、どれだけ救われていたのか。

(……だめ)

 首を振る。

(あれは、責任で優しくしてくれただけ)

 そう思わないと、また戻りたくなってしまう。
 そばにあったクッションを抱きしめた。
 涙が出そうになって、ぎゅっと目を閉じる。

(……誰にも、頼れない)

 そのときだった。

 ピンポーン。

 静まり返った部屋に、場違いなほどはっきり響いた電子音。
 一瞬、何の音か分からず、美羽は当たりを見回した。

(……え?)
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