これはもはや事故です!
 時計を見ると時刻は、午後9時半を過ぎている。
 
(もう、こんな時間なのに……)

 もう一度、ピンポーンと、インターホンが鳴った。
 
(……誰?)

 この時間に訪ねてくる人なんて、思い当たらない。

 立ち上がろうとして、力を入れると、足首がずきっと痛み、思わず息を詰める。

「……っ」

 インターホンのモニターを確認しようとして、でも、なぜか指が動かない。

 嫌な予感じゃない。
 怖いわけでもない。

 ただ、胸の奥がざわつき、期待してしまっている自分がいる。

(……違う。違うよ)

 自分に言い聞かせながら、震える指で、ようやくモニターを点けた。
 モニターの小さな画面に映ったのは……。
 スーツ姿の、見慣れた人。

「……え……?」

 一瞬、呼吸を忘れた。

 (どうして……なんで?ここに……?)

 モニター越しでも分かる、少しだけ疲れた顔。
 インターホン越しに、低くて落ち着いた声が響く。

『……美羽さん。俺だ』

 胸の奥で、何かが静かに崩れた。

(……来ちゃ、だめなのに)

 なのに……嬉しい、なんて思ってしまった自分が、一番、怖かった。
 美羽は扉の前で立ち尽くしたまま、動けずにいた。

 ドア一枚隔てた向こうにいるのは、頼っちゃいけない人。
 でも、今、一番会いたい人。

 限界の夜は、インターホン一つで、あっけなく揺らいでしまった。
 
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