夫のいない間に
 「はい?」

  いきなり、私の話?

 「近くを通ったら、最近、二台とも車が停まってるから、貴士は出張だろうと思ってたけど。梨子さんは仕事もうしないのかねぇ? って、美代子と話してたんだよ」

 美代子というのは、義父の妹だ。
 義母は数年前に亡くなったので、時々、義父の元を訪れては世話をやいてるらしいのだが。

 義父の、
  「″美代子が○○って言うんだよ″」は、大概、私の話で、美代子の名前を借りてるけれども、全て義父の本心だと思っている。

  その○○とは、

 ″お嫁さんの梨子さんにもっと家のこと頼ったら ″
 ″折角だから、梨子さんに○○してもらえば ″
 ″時間も車もあるだろうから、○○に連れて行って貰えば ″
 ″梨子さんに買って来て貰ったらいいじゃない″

 普通の家庭でなら難なく承る用ばかりなのだけど。
 うちは、少し違う。
 お金の事だけじゃない。
 夫が、私の母の為に何かをしてくれた事は一度もない。


 「仕事は、膝を痛めていて休んでるんです」

  そう私が答えても、

 「運動不足だろう。年食えば自然とどこかしら痛くなる。動けるうちは死に物狂いで働かなきゃいかん」


  嫁は苦労してこその美学を貴士に植え付けた義父の反応は、想定内のものだった。


 私は「ええ、そうですね」と言いながら、死ぬまで働かされた義母のことを、ぼんやりと思い出していた。






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