夫のいない間に
 結局。
 夫の捜索願いは出さなかった。
 心が少し病んでいるのかも知れないけど。
 あの人は、自由気ままに旅に出掛けてるのだとそう思うようにした。

 そもそも、あんなに横柄に生きてきたのに、心の病になるだろうか?
 心療内科にかかっていた事自体が信じられなかった。





 「梨子さん、貴士は元気かね?」

 夫がいなくなってから、初めて義父が家を訪ねてきた。
 来るときは、いつも突然だから慌てふためく。

 夫は、私や私の母には薄情な人でも、自身の親の事は気になって、一週間に一度は実家に顔を出していたから、この半月、それがなくて気になったらしい。

 「貴士さんは長期の出張に出掛けていて……」

 お茶菓子を出しながら、ご近所さんの時と同様の嘘をついた。

 義父は、寄ってくるマキロンを撫でながら、そんな私を訝しげに見た。


 「で、梨子さん、あんたは仕事は?」


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