夫のいない間に
 すると、女医は美しい顔を子供のように崩して、恥ずかしそうに笑った。

 「私、こんな職業に就いていますが、とてもメンタル弱いんです」

 「……はい?」

  心療内科医らしからぬ発言だ。

 「大好きな祖母がミカンを作ってまして、小さい頃からミカンが好きだったんです」

 「……はぁ……」

 「だから、何か思い悩んだり、緊張したり、行き詰まりを感じた時は、精神安定剤代わりにこの匂いを嗅いでるんですよ」


  ″一番の味方でいてくれた、祖母を感じるために″

 
 そういえば。
 医者の中でも、一番、心を病んでしまうのが精神科や心療内科の医者だと聞いたことがある。

 人の心を理解するためには、それだけ広くて、だけど繊細な心を持っていないといけないのかもしれない。

 夫が、この女医に熱を上げたのも分かるような気がした。



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