神系御曹司の初恋は難攻不落 〜「お前じゃない」と言われ続けて十余年〜

第十五章：白亜の牢獄、神系独裁者の「檻」

桜田商社のエントランスには、片桐グループのロゴを掲げた黒塗りの高級車が並び、威圧感を放つ黒服の男たちが無言で配置されていた。
社員たちは息を潜め、昨日まで「神系イケメン」と持て囃していた拓真を、今は「若き暴君」として遠巻きに見つめている。

拓真は震える優里の腕を強く掴み、新設された最上階の**「特別オーナー室」**へと連行した。

「……離して。美優のところに帰りなさいよ！」

優里が必死に抵抗するが、拓真は一言も発さず、彼女を室内へ押し入れる。
重厚な扉が閉まり、電子ロックの低い作動音が響いた。

そこは、最新のオフィス設備と贅を尽くしたリビングが融合した空間――
文字通りのスイートルーム。
同時に、逃げ場のない豪華な檻だった。

「今日から、ここがお前のデスクだ」

拓真は淡々と言い放つ。

「窓の外を見る必要はない。俺だけを見ていればいい」

ネクタイを緩めた彼は、優里をソファに押し倒すように覆いかぶさった。
その瞳には、理性の膜を破った飢えた光が宿っている。

「……っ、どうして美優じゃダメなの！？」

優里は涙を滲ませ、叫んだ。

「あんなに愛し合っているのに……どうして私を苦しめるの！？」

「愛し合っている？」

拓真の声が、低く、鋭く部屋に反響する。

「誰と、誰がだ」

（――愛しているのは、二十四年間、たった一人。
　なんでそこまで自分を貶めて、俺を拒絶する……！）

しかし、優里の脳内ではすでに最悪の結論が完成していた。

――拓真は、美優と結婚するための地固めとして会社を買い取り、
――邪魔な姉である私を、ここに隔離して口封じするつもりなのだ。

「……わかってるわ」

震える声で、優里は言った。

「私を閉じ込めて、美優と結婚するんでしょ？
　邪魔だから、外に出さないつもりなんでしょ！？」

沈黙。

そして、拓真は自嘲するように笑った。

「……ああ、そうだ。お前は邪魔だ」

それは、絶望の底で吐き捨てた言葉だった。

（――視界に入るだけで理性が壊れる。
　お前という存在が、俺の人生を根こそぎ狂わせているんだ）

「お前が外の男――勝利と笑い合っているだけで、俺は世界を壊したくなる」

拓真は、狂気を隠そうともせず言い切った。

「だから閉じ込める。文句があるか？」

「……最低」

優里は顔を伏せ、声を殺して泣き出した。

「……悪魔だわ」

その時、閉ざされた扉の向こうから、激しく叩く音が響いた。

「拓真さん！　開けなさいよ！」

美優の声だ。

「私をのけ者にして、お姉ちゃんと二人きりなんてずるい！
　独占するなんて許さないんだから！」

――彼女は彼女で、別方向に狂っていた。

さらに、室内の大型モニターが強制的に切り替わり、
西園寺勝利の顔が映し出される。

『片桐君。力で支配したつもりかい？
　君のグループによる不当な買収について、金融庁に報告させてもらったよ』

勝利は静かに、しかし確実に告げた。

『優里さん、今すぐ助けに行く』

「……チッ」

拓真は舌打ちし、モニターを叩き切る。

そして、泣き崩れる優里の顎を強引に持ち上げ、目を合わせた。

「いいか、優里」

低く、断定する声。

「世界を敵に回しても、俺はお前を放さない」

その瞳に、迷いは一切ない。

「美優も、西園寺も……誰一人として、お前に触れさせはしない」

それは愛の宣言であり、
同時に、完全な支配の宣告だった。