離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。
夏芭のような控えめな女性がこの派手なマスカレードパーティーに参加したのは何故だろうと気になり、聞いてみた。
すると夏芭は少し戸惑いながらこう答えた。
「えっと、友人が行っていて楽しそうだと思って……でも私には不慣れな場所でした」
「不慣れ?」
「あっ! ……実は、大勢の人が集まるところが得意ではないんです」
「そうでしたか」
「でもクリスマスイヴくらい、別の自分になって楽しんでもいいかなって。仮面を付けていれば誰も私とはわからないし」
そう言った夏芭のことがやけに印象的だった。
仮面を付けているのでどんな表情をしているのかはわからない。
だけど、何故か彼女から目が離せなかった。
(別の自分になりたい、という気持ちはわかる気がするな)
昔は自分も同じことを考えていた。
思春期の頃は六条財閥会長の孫、永瀬法律事務所の跡取りという肩書きを取っ払いたいと思っていたからだ。
「すみません、急にこんな話をして。永瀬さんってなんだか話しやすいですね」
「……僕も、何故か涼風さんには初めて会った気がしないと思っていました」
酒に飲まれて酔いが回っているか、熱に浮かされているか、或いは両方か。
「――涼風さん、足の具合はいかがですか?」
「え? そういえばだいぶ痛みが引きました」
「良かった」
「でもこのまま会場には戻らず、帰ろうと思います。この靴で戻るのは恥ずかしいですし……」
「では、もう少しだけ僕と一緒にいていただけませんか」
このまま彼女のことを帰したくないと思ってしまった。