離婚前提のはずが、策士な弁護士が離してくれません。
惺久はなるべく夏芭を怖がらせないように、優しくエスコートした。
まずはルームサービスで赤ワインを注文し、夜景を見ながら乾杯した。
イルミネーションの光で彩られた夜景を見下ろす夏芭の表情は、何よりも眩しかった。
「――夏芭さん、」
こんなにも触れたいと思ったことは初めてだった。
怖がらせたくない、軽率なことをしたくないという理性は確かに存在する。
だが、彼女を目の前にすると自分はこんなにも欲深い一面があったのかと嫌でも自覚させられた。
「っ……」
何もかもが初めてすぎる感情に惺久自身も戸惑いながら、ゆっくりと彼女の唇に口付けを落とす。
夏芭はピクリと反応したが、すぐに惺久を受け入れてくれた。
それから先は理性と本能のせめぎ合いだった。
夏芭をぐちゃぐちゃに乱してしまいたい気持ちを抑え込みながら、ワレモノを扱うように優しく触れる。
「……あ……っ」
恥ずかしそうにしながら、喘ぎ声が漏れ出る姿を見る度に理性が飛びそうになる。
全身に口付け、生まれたままの姿になっても彼女の顔は見ないようにした。
きっとそれが彼女の望みだろうと思ったからだ。
今この時間は、夏芭の正体を暴かない。
「別の自分になって楽しんでもいいかなって。仮面を付けていれば誰も私とはわからないし」
そういった彼女の気持ちを尊重したいと思った。
だが、朝になったらきちんと顔を見て話したい。
そして、叶うことならこれからも一緒にいたいと告げるつもりでいた。
自分の気持ちを正直に伝え、結婚を前提に付き合って欲しいと本気で告白するつもりだったのに――朝起きたらベッドはもぬけの殻だった。