あの人に会いにいく。
 そこで俺は安堵する。よかったと心から思ったのは、あの空気に耐えられなかったからだとどこかでわかっていたからだ。

 真冬の外に出たせいか、竹田先輩の鼻や耳はかすかに赤く染まっている。
 するとポケットに入れていたスマートフォンが振動し、時間を見るついでに確認すれば、メッセージ主は【母親】と映し出されていた。

【京也、何時頃に帰ってくるの?】
 時間を確認すれば、すでに二十一時を過ぎていた。

【そろそろ帰るよ。母さんは仕事終わった?】

【少し長引きそうなのよ。夕飯作っておいたから冷蔵庫から出して食べといて】

【わかったよ。終電乗り遅れないように】

 俺が物心つく前から、父と母は仕事を優先する人だった。
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