海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
「博益殿、貴方がなぜここに?福、どうして博益殿と一緒に?」

「堅苦しいな。【博益】でよい」
そう言う博益の表情は、1つも崩れることのない⋯穏やかさ。

肝が据わっているのか、ただただ能天気なのか?いや、おそらく前者であろう。

「なぜって⋯もう忘れたのか?この九部の地図を渡したであろう?次の目的地を記していたではないか」

「⋯⋯⋯」

「覚えてもないのだな。では、あの約束も?」

「いえ、博益。共に九部を巡ろうと約束した」

「覚えてるではないか。あの妙な鳥⋯そなたが名付けた【シュン】のことも?」

「もちろん」

「その怪鳥を追って来たのだ。どのような鳥であるのかこの目で見て確かめねば。嘘は書けないであろう?」

「⋯⋯⋯」

嘘は書けない、と誠実そうなこの人のその目の奥には⋯深淵の底には。嘘が隠されている。

怪鳥を追って来た?
それは⋯嘘ではないかもしれない。けれど、カモフラージュとしての事実。
この人はおそらく⋯禹王の配下の者。そして、それはとても近しい。

そうであるならば⋯私が聞いたその名こそ⋯偽りではないか?そして、この地に来たのはきっと、帝王の命。

この事態の把握が目的なのか、解決を目指すのか、はたまた⋯

私はチラッと、有昧王の横顔を盗み見る。

はたまた⋯夏王朝を揺るがすほどの才を持つこの者を、監視するため?

「⋯それで⋯ここに来たがいいが、たまたま縁ある愚強に会い、(この者)を任された」

「⋯⋯。そうでしたか」

「その様子では、私に会いに来たのではなさそうだな」

博益は苦笑して。
それから⋯この人もまた、遠い霧の先⋯、鐘山の頂上を見上げる。

「海棠。いずれにせよ、縁があることには変わりない。早速だが⋯共に目にしてみぬか?」



博益がそう言ったその瞬間であった。
強風と共に、足元を掬われるようにして⋯私は大きな大きな【何か】の上に仰向けになって転び―⋯

それがエレベーターのように、ぐんぐんと上昇していくのを感じていた。



不思議なことに。
愚強のその背に乗っている時とはまるで違う雲に乗るような安定感。

「⋯⋯運転技術は⋯こっちが上か」
などと呟いて、隣りに座する⋯その男の横顔を見つめたのであった。


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