海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
突如ぽいっと投げ出されたのは―⋯、高台にある医療と軍営の基地であった。
粗暴に扱われるのは、今更のことであるのでこちとら突っ込みはしない。けれどまだ、トリアージと救護の途中だ。

一応は―⋯睨みつけてみる。
「なぜ現場から離れた所に⋯!」
が、
「大局を見よ」
との一言で、アッサリ黙らせられた。

「お前は―⋯指揮を執る者であろう?なぜあちこちを駆ける?」

「⋯⋯⋯」

「お前が居らずとも、既に回っている。驍や福、有昧の兵がこなしていたであろう」

⋯⋯ごもっともな、指摘だった。

「お前は―⋯ただの人間だ。長く戦地に留まれば⋯」

「わかってる!それくらいは―⋯わかってる」

「⋯⋯」

「確かに、天妖界の者達と違って寿命も短ければ―⋯とても脆く弱い生き物だと、そんなのとうに自覚してます。けど、目の前で大勢の人達が命を落とした。私より皆強く、もっと生きることができた者達が。有昧こ⋯、有昧伯。肝心なそこに優劣はないんです。私だけが1人で座して待て、と?弱いから?それは⋯言い訳に過ぎない」

「⋯⋯」

「それに⋯私が教えていたのは、貴方方が知らない医学と蘇生法。より多くの命を救う、最も効率的な⋯」

「なら聞こう。他者にそれを施しておきながら、己の今の状態にさえ気づけないのか」

「⋯⋯ん?」

言われて見れば。顔は恐ろしく熱いのに、手足が―⋯驚くほど冷たい。

「側にいた死人と変わらぬ程に―⋯顔が蒼白く、唇など毒でも口にしたかのような色気だが」

「⋯⋯⋯」

炎天下のフィールド。
真夏の――⋯空の下。
これは―⋯プレーヤ―として最も危惧していた筈の⋯

「⋯⋯いっ?!」途端に。
脹ら脛に電流が走ったかのような痛みが⋯走った。

決定的である。
この症状―⋯、この喉の渇き―⋯。

「有昧伯⋯⋯」

「⋯⋯⋯?」

「ちょっと今動けないので申し訳ないけれど。塩をください」

有昧后は近くの者にそれを命じて、それを掌へと受け取ると⋯。私の前に差し出した。

何をする気だ?といった顔つきだ。

私はその塩をつまみ取って。
口の中へと入れてみる。純度100%、北溟の塩だ。

けれど。
全くしょっぱくない。美味い。即ちそれは⋯

医者の不養生と言えよう。
熱中症の―⋯予兆だ。

まさか攣った足を伸ばせなど、サッカーにおけるリスペクト精神のあの行為を願うことなどできはしまい。

痛みに耐えながら⋯要求してみる。

「この塩少々とはちみつとを冷めた湯で溶かして持ってきてなど―⋯⋯くれないですよね、はい。おとなしくしてます」

するとどうだ?
有昧后はゆっくりと立上がると。胡座をかいている私のそのししゃも足の絡まりを―⋯強引にとって。

悶絶する私の顔を、眉1つも動かさずに、じっとじい―⋯っと、見つめるのであった。

この―⋯鬼軍師め。

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