海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
私は、足を引き摺りながら―⋯有昧后の滅紫の袖を掴んで、その場から連れ出していった。

彼の耳元に手をあて、コソコソと内緒話をする。

一方の后は、相も変わらず無表情を決め込んだままだ。
すん、とした顔してとんでもない神を連れてきたもんだ。

「⋯だから―⋯一介のただの人間が言うことを、あの方が鵜呑みになんてしないはず。でも⋯この上ない適任者。―⋯だから貴方は彼を呼んだのでしょう?」

「⋯⋯⋯」

「貴方の言葉ならきっと、彼を動かすことができる。だから、幾つかお願いして欲しい。1つは⋯大量に持ってきた麻。あれを細長く裂いて、煮沸してから使おう。殺菌されて衛生的にも安心な包帯になる。それから―⋯縫い合わせて、袋を作って欲しい。土砂を入れて、博益が操る鳥達に空から川へと落として貰う。衣服や布団代わりにも使えるから、麻の入手は必要不可欠だった。あと、先ほどの飲み物を―⋯」

「⋯⋯面倒だ。自分で伝えよ」

「でも」

「黙れ。時間が勿体ないとわかっていながら無駄なことに費やすな」

空気が一気にピリ、と張り詰める。
この男こそ、無償で私の願いを聞こうなどしないであろことを⋯忘れていた。

確かに、二度手間だ。けれど―⋯、約束通りに戻ってきた。おそらく最も効率よく、適材適所に役割を全うできる力ある者たちを―⋯連れて。この苦境でも⋯いくら辟易していても。
頼りたくとも。

目さえ合わせもせずに―⋯そうさせてくれないのだ。



私はハア、と大きく息を吐いてから有昧后に背を向けると、再び【契】の元へと向かっていったのだった。

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