海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜

第22話 泥上の共同演算

有昧后の周囲の人間(ではないけれど)たるや、この時代のエリートばかりが揃っていることに私は驚きを禁じ得ない。
1を言えば10を理解する。そんな有能な者ばかりだ。

けれど―⋯検索エンジンも、辞書もない時代に、現場単位で全てを作り出していく様は⋯歴史の礎であり、泥臭い人間そのものである。無論、未来など知らぬ彼らにそんな意識などないだろうけれど⋯生き様自体が、生命力に溢れている。
決して怠けているわけではないけれど、その礎が糧となり、積み上げてきた⋯現代人の知識って、付け刃のように脆く、希薄で、説得力に欠けている。そんな気さえ⋯してきた。

ここがファンタジーの世界でも、異界であっても、夢であっても。

この時代、この人たちに会えたことは⋯まさに、忘れられない財産となり得よう。

だからこそ―⋯この【世界】を、未来に繋がるかも分からないこの世を、守り抜かないと⋯!


「⋯⋯。海棠、何を考えているのだ?」

ふと気づくと、契が、不思議そうに私の顔を覗き込んでいた。
談義?の途中で呆けてしまっていたようだ。

「新たな策を練っているのだな?まだ他に必要な物が?」

「⋯⋯」

サラリとそう言ってのけるこの人こそ―⋯五教(※父義、母慈、兄友、弟恭、子の孝)を広めること命じたられた、いわば人間関係の基本ルールの統一化を図る担当官であり、教育者だ。
商いを語り、商旗を掲げながら、やっていることは無償という究極の贈与。

―⋯矛盾していないか?

利害関係ならば―⋯交渉(ディール)もできるが、善意(五教)で動く相手には、感謝するしかできない。

「ありがとうございます、契さん」

「困っている者に手を差し伸べるのは、当然の道理だろう?」

徳を説くこの者に、【商】に、利があるとすれば―⋯?

互いに視線を合わせ、まるで―⋯腹の内を探り合っているかのように。
にこ、と笑う彼と―⋯つられてニヤ、となる私。


「算盤を弾く音がどこからか聞こえて来るが」

そんなズバっとした言葉と共に―⋯会話に割って入って来たのは、驍大人。

「善意には善意で応えるのが道理だ。それを分かっててこう言っているのだからいちいち惑わされるだけ時間の無駄だぞ、海棠」

「驍大人」

「今はこの男に任せるべきだ。いいか、賢さが判断を鈍らせることもある。財のことは―⋯俺が締めるべき所は締める。地首よ、有昧軍は既に覚悟も準備もできているのだ。まだ道半ばであろう?策があるなら、有昧后に判断を仰ぎ次の指示を」

驍大人の言葉が、全てだった。
なるほど、とストンと腑に落ちる。

つまりのところ―⋯

五教の周知という公的な任務と並行し、この男は着々と「経済(商い)」のネットワークを広げているのだろう。ルールが浸透した場所ほど、この旗(商)はよく通じるようになる。
この善行こそマーケティングであり、これでこの地の人々は、一生この『商』の旅団に恩義を感じるようになる 。
この善行を終えた後。次こそが―⋯まさに、交渉へと有利に働き、利ヘと繋がる。

無償提供(フリー)こそが最強の囲い込み戦略だって、この時代の人間が知ってるわけないのに―⋯先を見越したとんでもないビジネスマンって訳だ。





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