海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
ここからは―⋯仕切り直して、軍事会議のスタートだ。私が頭の中で描いていた、治熱の陣のお披露目である。
私はしゃがみ込むと、泥面に棒で⋯図を描いていく。
「獯鬻、一目国の者達は、話を聞くにその地の理を知る土木のプロ。治熱ルートを穿つ適任者だね。そして今は契の強固な救援物資と物流の力を得た。随時補給しながら―⋯途絶えのないようにしたい。彼らに任せる役割は明白であるし、細かい気づきは、一目国が鋭い眼力で務めてくれるから⋯抜かりもない」
浮游は私が描いていくその広大な【循環図】を眺めて。そしていつものように、空へと転写する。
空という大きなキャンバスに描かれた図は―⋯百聞は一見にしかず。一気に伝令として伝わるであろう。
これは、ただの治熱の溝では、ない。夏王朝の者たちでは到底理解し得ぬ禁忌の陣だ。
「有昧后、貴方に伝えていたように、共工、禹后の治水を導入・コラボさせた導熱の陣を考えた。山々を削り、それから―⋯部分的に燃やしながら、道を切り拓いていく。高速道路設立並みの大工事になるけれど⋯ここが天妖界であるなら、それぞれの才と能力を生かせば現実的に短期で可能だと思う。北西の有昧の方へと流れる忘川。その底を伝い、熱をある場所に流す。冥界へ送る⋯楔のパス」
「なぜ、海ではなく冥界に流すのだ?」
「温暖化現象の恐ろしさを知らないのも、無理ないか。これ以上、生態系や気候に変化を与えては、天妖界が天災に見舞われるだけ。ならば―⋯必要とする場所に。有昧后。知っての通り、私は生死を彷徨ったことがある。いやー⋯、人間として、1度死を経験したのだと思ってる。その時の感覚は―⋯消えることがない。酷く寒くて、冷たくて、震えが止まらずに⋯救いのないような後悔に苛まれて。生きた心地がしないの。⋯死というのはそういうもので当たり前でしょうけど。なのに、死して救いを求めている」
「⋯⋯⋯」
「ほんの少しでも⋯温かみがあったら。それは、何もない無の世界の、唯一の拠り所になるのでは?⋯はっきりとは覚えていないけれど―⋯私も、そんな感覚だけは残ってる。温かい毛玉に包まれたような⋯」
「忘川の底と言うが―⋯そこを歩けば、記憶を失ってしまうと前に言った筈だ」
「だから、治水なの。共工案だね。堰を作り、水を一時的に遊水地へ。ここでは、スピードを要する。水が溢れ流れてしまえば、ゲームセット。アディショナルタイムなんてないから、勝利が絶対条件。干上がったら一気に川底を穿いて、パイプを埋め込む。有昧も、おそらく―⋯商も、青銅技術に長けるでしょう。青銅で、パイプを造る。できるでしょう?有昧后」
「⋯⋯」
浮游の口の端が、僅かに上がっているように―⋯見えた。当然だ、というような、自信の表れだろうか。
私はしゃがみ込むと、泥面に棒で⋯図を描いていく。
「獯鬻、一目国の者達は、話を聞くにその地の理を知る土木のプロ。治熱ルートを穿つ適任者だね。そして今は契の強固な救援物資と物流の力を得た。随時補給しながら―⋯途絶えのないようにしたい。彼らに任せる役割は明白であるし、細かい気づきは、一目国が鋭い眼力で務めてくれるから⋯抜かりもない」
浮游は私が描いていくその広大な【循環図】を眺めて。そしていつものように、空へと転写する。
空という大きなキャンバスに描かれた図は―⋯百聞は一見にしかず。一気に伝令として伝わるであろう。
これは、ただの治熱の溝では、ない。夏王朝の者たちでは到底理解し得ぬ禁忌の陣だ。
「有昧后、貴方に伝えていたように、共工、禹后の治水を導入・コラボさせた導熱の陣を考えた。山々を削り、それから―⋯部分的に燃やしながら、道を切り拓いていく。高速道路設立並みの大工事になるけれど⋯ここが天妖界であるなら、それぞれの才と能力を生かせば現実的に短期で可能だと思う。北西の有昧の方へと流れる忘川。その底を伝い、熱をある場所に流す。冥界へ送る⋯楔のパス」
「なぜ、海ではなく冥界に流すのだ?」
「温暖化現象の恐ろしさを知らないのも、無理ないか。これ以上、生態系や気候に変化を与えては、天妖界が天災に見舞われるだけ。ならば―⋯必要とする場所に。有昧后。知っての通り、私は生死を彷徨ったことがある。いやー⋯、人間として、1度死を経験したのだと思ってる。その時の感覚は―⋯消えることがない。酷く寒くて、冷たくて、震えが止まらずに⋯救いのないような後悔に苛まれて。生きた心地がしないの。⋯死というのはそういうもので当たり前でしょうけど。なのに、死して救いを求めている」
「⋯⋯⋯」
「ほんの少しでも⋯温かみがあったら。それは、何もない無の世界の、唯一の拠り所になるのでは?⋯はっきりとは覚えていないけれど―⋯私も、そんな感覚だけは残ってる。温かい毛玉に包まれたような⋯」
「忘川の底と言うが―⋯そこを歩けば、記憶を失ってしまうと前に言った筈だ」
「だから、治水なの。共工案だね。堰を作り、水を一時的に遊水地へ。ここでは、スピードを要する。水が溢れ流れてしまえば、ゲームセット。アディショナルタイムなんてないから、勝利が絶対条件。干上がったら一気に川底を穿いて、パイプを埋め込む。有昧も、おそらく―⋯商も、青銅技術に長けるでしょう。青銅で、パイプを造る。できるでしょう?有昧后」
「⋯⋯」
浮游の口の端が、僅かに上がっているように―⋯見えた。当然だ、というような、自信の表れだろうか。