海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
「それで⋯⋯、お前は、何者なのだ?」
突如降ってきた、いつぶりかに聞く台詞。

今更過ぎる⋯言葉。
「さあ?有昧后、進展のない答えを聞いて何が面白いのですか」
緊迫していたはずの空気が、一気に緩んでいく。

「⋯⋯⋯。ここの者ではないのに、かような広大な地理を把握しているのは何故だと?」
「う〜ん⋯。ああ、そう言えば博益が言ってた。【神は縁ある場所へ、人を還す】と。私ががいた世界と、何かが繋がっているでは、とも言われけど―⋯そうならば、私の前世が天族か妖族だった可能性も。なーんて、神⋯」
「笑わせるな」
「ん?やっぱり面白い?」
「お前の陣は、欠点だらけだ。天族だったのであれば、天の理くらい⋯考慮するだろう」
「⋯浮游。何わかりきってることを」

相も変わらず、冗談も利かない男だ。

「それから―⋯」

「はい。何でございましょう」

「お前のその視野の広さは、時として⋯仇となる。大事な一点を見逃す。⋯【落とし所】だ」

「⋯⋯」

浮游は無骨で長い指先で、循環図のある一点をトン、と突いた。

おそらく―⋯正論を並べているのであろう。

付き合いが長くなってきて、これだけは確実に言える。

極めて―⋯正しいのだろう。

それであるのに、答えを容易には明かさない。毎回、そうだ。

分かっているからこそ、対等に張り合ってみたくもなるのだ。

そう。

理詰めで攻めて来る相手には―⋯、こうだ。

「―⋯ボランチは全体を考えるバランサーだから⋯1点を鋭く狙うFW(フォワード)とは違います。ゴリゴリのストライカータイプではないことをご察しいただいたんですね。英明です、有昧后」

「⋯⋯」

理詰めには、倍返しの現代語かつ専門用語で―⋯同じ思いをさせてやるのが賢明だ。

「「⋯⋯⋯」」

怒ってるでもなく、咎めるでもなく、じっ、と目を見てくるのは―⋯。
彼らにとってはそもそも単語の意味すらわからないからだろう。

してやったり。

そしてこれもまた、事実を述べたに過ぎないのだから―⋯正論なのだ。

目には目を。歯には歯を。

「浮游。貴方はとんでもなく聡明で、知略にも長ける。私が間違っていても、本質的な部分は概ね的を射ていたのでは?だから―⋯ヒントだけを与え、考えさせようとする。⋯違う?」

「⋯⋯」

「視点を変えてみて下さい。分かりやすくいいましょう。つまり、1点を狙うその道中へと相手を導くのが私の本職とも言えるんです。1点を見逃さぬよう、楔を打ち局面を切り拓く。つまり―⋯対自分、ではなくて、相手在りき。その相手が、有昧后。貴方であると。ですから―⋯自分の欠点など分かっています。こうなるであろうことも。いいですか?わかってて敢えて、この策を献上しているんです」

右手を左拳に添え、腰を折って恭しく拝礼する。

すると―⋯どうだ?

「それから―⋯もうひとつ」

初のパターン。面倒になったのか、完全スルーからの話題変換だ。

くそう。食えない奴だ。

「⋯まだあるんですね。どうぞ、何なりと。全ては貴方に繋ぐパスとして返しますので」

「真面目な話だ。そろそろ黙れ」

ひゅっと一気に―⋯背筋が凍る感覚。

襟元を正された形だ。

「もうひとつは―⋯」

と、有昧后が口を開きかけたときだった。
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