海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
この茶番劇もまた―⋯、有昧后のひと言によって、強制終了された。
「海棠。(まつりごと)に安易に首を突っ込むな。いくら理にかなっていようがお前ごときが口を挟めることではない」
「⋯⋯!」
「禹后が知らぬと思っているのか?―⋯北溟に住む勢力は、かつて禹后が迫害し北に追いやった逆賊達だ。当然、禹后は常に動向を探っている」
「けれど―⋯」
「黙認しているだけだ。獯鬻や北溟の者が自ら勝手に滅びるのは願ってもないことではある。だが―⋯北から得ている羊脂や獣皮が途絶えることは不本意であろう。逆も然り。交易を交わしている事実がある以上、経済において利害関係が発生する。話は変わってくる」
「⋯⋯⋯」
「緊急を要する未曾有の事態だ。自らが討伐するのとは違う。邪魔だてをしても批判を受けるであろう。かと言って、協力もできぬ。これらを突かれたら―⋯禹后にとっては致命傷だ」
なるほど―⋯。禹后が知らない筈もない、と。そうだ。冷静に考えたら―⋯傘下の有昧后が動いた地点で、既に認知しているに等しい。それに―⋯有昧后以前に、彼もまた、既にここにいたではないか。
おまけに―⋯、だ。禹后側から見れば、契さんは中原の忠臣。けれど―⋯食えぬ方国の主。密接な関係にある彼が動いていることで、「中原も陰ながらこの災害に対処している」という大義名分を―⋯いや、あくまでもポーズではあるが、それでも周囲に示すことはできる。契さんの勝手な行動も非常に都合が良い「隠れ蓑」って訳か。
これに―⋯逆賊である獯鬻らが携わっているとなれば。この事態は、政が複雑に絡み合うことになる。
戦ではない。事態をおさめる為に、こちら側の動きが黙認されるならば―⋯茶番として、このことに触れぬ方が賢明だろう。
「余計な口出しを。面倒に巻き込まれるのは嫌なので、もうどうでもいいです」私はそう言って、何事もなかったかのようにケロリとした表情の博益を―⋯チラリ見するのであった。

そして―⋯いよいよ、本題である。

有昧后は、私から木の棒を奪い取ると、描いた図面の問題点、その箇所に―⋯。棒をグサリと突き刺した。

そして、足元に落ちていた石を拾って―⋯上書きしたのだ。

それは、ただ一箇所に螺旋を描いただけの―⋯シンプルなものだった。

「横軸ではなく、縦軸だ」

「⋯⋯?」

空に転写されたキャンバスにもまた―⋯その渦巻きが描かれていく。外側から―⋯中央に向かって、ゆっくりゆっくりと。

最後に、巨大な渦の中心に辿り着くと。その目玉は、まるで巨大な―⋯ブラックホールだ。

吸い込まれて行きそうな―⋯妙な感覚襲われて、思わずブンブン、と首を振った。

「冥界の死者の魂が受け入れるか―⋯、博益、そう言ったよね。有昧后、どうするつもりですか?」

「私が赴いて、まずは冥界王に話を通す」

と、当たり前であるかのように言い放った。

いきなり突拍子のない解決法の露見に、盛大にずっこける思いだ。
行けるんかーい。

ん、待てよ―⋯。冥界の王、だと―⋯?
「有昧后。まさか―⋯閻魔大王?」
「⋯⋯」

うんともすんとも、答えてはくれぬが。

なぜだろうか―⋯?

喉の奥が、焼けるようにカーッと熱くなる思いがした。


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