海棠/カイドウ〜哀をなくした不遜な軍師と、愛しき共謀者が綴る備忘録〜
けれど、これら全てが上手くいったとしても⋯。そして、このプロジェクト自体に、最大の欠点がある。

我々皆が知っていて、直視できぬ―⋯問題だ。

誰かがここに、口を出さねば根本的な解決にはならないだろう。

余計なアレコレを言う役割は―⋯その適任者は、私だ。

「この燭陰の熱は⋯、【しゅん鳥】がこの世に存在する限り続く、親子の切ない共依存。熱を循環させて、燭陰と北溟のピンチは何とかなるのかもしれない。けれど―⋯同時に延々と続けなければならないということ」

それを果たして両者が望むのか?
誰が、親子の情に口を挟めると言うのであろう。どう転んでも、幸せな未来などない。それを知りながら―⋯

重たい口を開いていく。

「⋯⋯海棠」口火を切ったのは―⋯博益だった。

「そなたと共に、酒を酌み交わした時。【シュン】が飛来してきたであろう?」
「⋯うん」
「はるばる―⋯助けを求めに来たのだ」

「⋯⋯」

あの時―⋯鳴き声をあげながら、私たちの頭上をずっと飛び回っていたシュン。確かに、少しの間ではあったが―⋯博益の肩に止まって、じっとしている時間があった。

彼もまた邪険にすることなく⋯ただ黙って目を閉じていた。

そう。それはまるで⋯通じ合う者同士のように。

「シュンは、その存在さえ疎まれる悪獣だ。けれど、望んで災害を引き起こしてる訳ではない。そういう生き物に転生してしまっただけだ。ましてや、父親のこの事態を―⋯心配さえしている。もう十分だ、と」

「つまり―⋯」私はそう呟いて、博益と、それから有昧后の顔とを―⋯交互に見る。
誰も、その先に触れることは―⋯ない。皆、静かに1つ頷いて。

私は博益の肩を、ポンポン、と2つ叩いた。

言葉は、ない。有昧后が立ち上がり、その大きな背中で威厳を見せつけ⋯闊歩していく。

続いて、博益が―⋯笛を鳴らして。羽ばたく玄鳥に飛び乗って、上空へと向かっていった。

そして―⋯私は。
衣の少し乾いた泥を、払い除けて―⋯。滅紫の紐を固く締め直すと。

自分が地面に描いた循環図の座標―⋯、そして有昧后が螺旋を上書きした、そのセンターサークルの中心に向かう。
後半のキックオフ。その中央でピタリと止まる。

空に転写された北溟のピッチに、向かい合う2つの影が―⋯、映し出されていた。

「最初にするべきことは―⋯?」

有昧后が、不意に問うた。

「忘川を―⋯堰き止めること」

「まだ有昧まで戻るつもりか」

「⋯⋯?」

「螺旋の中央だ。横軸に考えず、縦軸に捉えよ」

ブラックホールの中心にいた影が―⋯スー⋯と、その闇に消えていく。

「目に見える所が全てではない」

「⋯⋯!!」

このひと言で―⋯全てが合致した。

じわ、じわと―⋯先ほどまでの有昧后の言葉の真意が明確に伝わって来たのだ。

私は、そう。

高台の軍営基地。

そこに描いた―⋯陣の、その中心に立っている。

有昧后と初めて肩を並べて、さあ、いざ号令を―⋯と息をスー⋯と、思い切り息をする。

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